伯爵: 嬉しいな、きみのほうから尋ねてきてくれるなんて。
少佐: やかましい。盗んだマイクロフィルムをとっとと出せ。
マイクロフィルムっていまどき無いですよね・・・
「夕食はジビエ?悪いけど私には料理できないよ。」
「食うのは来週だ。英国貴族がなに蒼い顔しとる。キツネ狩りぐらい行ったことあるだろう。」
「おてんばな姉たちが持って帰ってくる猟果から、悲鳴を上げながら逃げ回るのが私の役目だったよ。血は苦手なんだ。」
「射撃がさっぱりなのは、そのあたりからきとるのか?」
「かもね。銃声は嫌いだ。血はもっと嫌いだ。」
伯爵は静かにドアを閉めて家の中に戻った。それだけの話でもなさそうだなと、少佐は思った。あとで吐かせてやる。小さく鼻を鳴らして羽根の始末に戻ると、秋の日差しの中でまだ冷えきらない血がねっとりと臭った。少佐は勢いよく蛇口を開けてそれを洗い流し、立ち上がった。残りは厨房で下処理をしてから抜くとしよう。
【概要】 クラウスはエーベルバッハ邸で開かれた従兄弟の結婚式に参加した。ドリアンもまた、まったく別の意図をもってその場にいた。
【注意】 ティリアン、ドリアン、クラウス、クラウスの父、エーベル バッハ家の執事、その他のエロイカ関連の登場人物はすべて青池保子氏の財産です。私が彼らに加えた加工は、彼女の責によるものではありません。その他の人 物は存在しません。また、エーベルバッハ市は実在しますが、私は独自にそれを脚色しており、歴史等にも改変を加えています。
Peripeteiaとは、事態の激変をあらわす用語。ドラマの流れが悲劇へと舵を切り、カタストロフへと向かうその瞬間を指す。