くわえ煙草でバスルームに入ってきた少佐は、なんらかの違和感に気づき、足を止めた。違和感。おかしくないはずなのだが、何かがおかしい。そして気がついた。
「おまえ、ヒゲ剃っとるのか…。」
「あたりまえだろ。シェーバー借りたよ、ありがとう。めんどうだから永久脱毛してしまおうかとも思うんだけど、ゆくゆくはヒゲのナイスミドルという路線も捨て切れなくてねえ。ああ、きみは生やさなくていいよ。猪が熊になるだけで、私の美意識から外れるから。」
「……」
「電動のシェーバーを使うのは久しぶりなんだけど、すごく使い心地いいね。これ、PHILIPS製? きみって、ドイツ製以外でもいいものは使ってるんだね。私の誕生日プレゼントにリクエストしようかな。」
「……」
「あ、それから、もうすこしましなシャンプーを置いてもらえないかな。自慢の巻き毛が絡まってしまって困るんだよ。きみの髪、よくあんなのでそのツヤが出るよね。」
言うだけ言うと、伯爵はさっさとバスルームを後にした。少佐はつぶやいた。
「ヒゲも巻いとるんだろうか・・・」
首を振り、PHILIPS製のシェーバーを取り上げて、少佐は自身の剛いヒゲを剃りはじめた。
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