出せるものが何も無いので、書きさしで止まっているものでも貼り出しておきます。お茶請けにでもどうぞ。
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「士官学校の四年間の間は堅物だったようだね。まったく何にも引っかからなかった。」
伯爵はぐるぐると歩き回りながら、なにやら書類を読みあげ始めた。
「入隊して戦車科にいたころに、士官学校の先輩である女性軍人との恋愛が一回、その後も同じく女性軍人との恋愛とは言えない程度のアフェアが二人と、どうやらお父君の差し金で素人のお嬢さんとのお付き合いがやはり二人、商売女とは若いころは同期とのお付き合いでけっこう遊んだけど、後に決まったお馴染みを作って、しばらくは決まったご婦人にばかり通ってた。かなり年上のそのご 婦人が商売をたたんで堅気の奥さんになってからは、そういう女性たちとのお遊びはほんのときどき。最近もまあ、数えるほど。」
書類から顔を上げて、ちらっと少佐の顔を見た。
「NATOに出向してからは、女子職員に手は出した形跡はなし。でも他国の諜報部員との後腐れの無い情事ぐらいはあったのかもね。残念ながらギムナジウム時代のことまでは調べがつかなかったな。 隣の女子高の女の子の間ではすごーく有名みたいだったけど。それから…男は私がどうやらほんとに初めての模様。」
珍しく定時のオフィスを出て自分のフラットへ帰った少佐は、伯爵が突きつけてきた書類と写真を前に、くわえていた煙草を落としそうになっていた。「おまえ…最近こそこそしとると思ったら…なにを調べとったんだ?」
「笑いたきゃ笑えよ。気になってしょうがなかったんだから。」
「あのなあ、そういうのはよくない趣味だぞ。」
「私だってこんなことをするのは初めてさ。というか、どう考えてもヘテロの男に絶望的な恋をして、何年も我慢した挙句に急転直下でそいつと相思相愛になるなんてのは初めてなんだよ。」
伯爵がうっかり口に出した「相思相愛」の単語に照れて、双方があらぬ方向に目を逸らした。
「…えーと、どこまで言ったんだっけ。」
「おまえが俺の過去の素行調査をしたところまでだ。」
「きみってほんと、俗物だよね。もう少し華麗な恋愛遍歴とかは無いのかい?」
「あっても言わん。おまえだって俺に言わんことは山ほどあるだろうが。」
「お遊びのほうなら、言われなくてもただいま整理中だよ!」
「俺は整理するまでも無く清廉潔白だ。」
「今後はなるべく慎み深くすることを誓うさ。」
「ということは、現在進行形でなにかあるんだな。」
「あったらどうだって言うんだよ!私はきみにぞっこんだけど、きみは素敵な恋人ってわけじゃない。かまってくれるわけでもないし、こっちがかまうと怒り出 す。自分勝手で乱暴で、えらそうでぶっきらぼうでタバコくさい。二言目には『俺は忙しい』だし、実際忙しくてなかなか会えない。会ってもベッドに引きずり込むのにすごく手間と時間がかかってめんどくさいし、おまけにベッドの外ではこんなふうに喧嘩ばかり だ。外でのデートも全然なし!手もつないでくれない。キスもしてくれない。なんでこんな男に夢中なのか、自分でもわからないよ。外でちょっとぐらい試食品の味見をしたって、どうだって言うんだよ!」
「何を逆切れしとるんだ!」
「きみに普通の女性関係が、しかもけっこうたくさんあってちょっとショックを受けてるだけさ。」
「俺がホモじゃないのは知っとっただろう。」
「知ってたさ。でもそれとこれとは話は別だ。頭ではわかっているけど、心が納得しないんだ。きみ、やっぱり当たり前の普通の男じゃないか。」
「最初からそう言っとるだろうが!」
「なんでそんないけしゃあしゃあとしてるんだよ!過去数年の私に対する態度からしたら、君は本来なら今頃は頭をかきむしって教会に懺悔に行っててもおかしくないぐらいの心境だと思うんだけど。」
「なんかもっとこう、鳥肌が立ったり吐き気がしたりするかと思っとったが、案外なんとも無かった。いやでもしかし、朝起きて隣にごっつい男の腕とか背中を 見ると、なんでこんなこ とにと愕然とすることはある。おまえ、指は細いけど手は俺よりでかいしな。それに、上に乗られると結構重い。」
「なんだよそれ!」
伯爵は猛然と少佐に(続く)
珍しく定時のオフィスを出て自分のフラットへ帰った少佐は、伯爵が突きつけてきた書類と写真を前に、くわえていた煙草を落としそうになっていた。「おまえ…最近こそこそしとると思ったら…なにを調べとったんだ?」
「笑いたきゃ笑えよ。気になってしょうがなかったんだから。」
「あのなあ、そういうのはよくない趣味だぞ。」
「私だってこんなことをするのは初めてさ。というか、どう考えてもヘテロの男に絶望的な恋をして、何年も我慢した挙句に急転直下でそいつと相思相愛になるなんてのは初めてなんだよ。」
伯爵がうっかり口に出した「相思相愛」の単語に照れて、双方があらぬ方向に目を逸らした。
「…えーと、どこまで言ったんだっけ。」
「おまえが俺の過去の素行調査をしたところまでだ。」
「きみってほんと、俗物だよね。もう少し華麗な恋愛遍歴とかは無いのかい?」
「あっても言わん。おまえだって俺に言わんことは山ほどあるだろうが。」
「お遊びのほうなら、言われなくてもただいま整理中だよ!」
「俺は整理するまでも無く清廉潔白だ。」
「今後はなるべく慎み深くすることを誓うさ。」
「ということは、現在進行形でなにかあるんだな。」
「あったらどうだって言うんだよ!私はきみにぞっこんだけど、きみは素敵な恋人ってわけじゃない。かまってくれるわけでもないし、こっちがかまうと怒り出 す。自分勝手で乱暴で、えらそうでぶっきらぼうでタバコくさい。二言目には『俺は忙しい』だし、実際忙しくてなかなか会えない。会ってもベッドに引きずり込むのにすごく手間と時間がかかってめんどくさいし、おまけにベッドの外ではこんなふうに喧嘩ばかり だ。外でのデートも全然なし!手もつないでくれない。キスもしてくれない。なんでこんな男に夢中なのか、自分でもわからないよ。外でちょっとぐらい試食品の味見をしたって、どうだって言うんだよ!」
「何を逆切れしとるんだ!」
「きみに普通の女性関係が、しかもけっこうたくさんあってちょっとショックを受けてるだけさ。」
「俺がホモじゃないのは知っとっただろう。」
「知ってたさ。でもそれとこれとは話は別だ。頭ではわかっているけど、心が納得しないんだ。きみ、やっぱり当たり前の普通の男じゃないか。」
「最初からそう言っとるだろうが!」
「なんでそんないけしゃあしゃあとしてるんだよ!過去数年の私に対する態度からしたら、君は本来なら今頃は頭をかきむしって教会に懺悔に行っててもおかしくないぐらいの心境だと思うんだけど。」
「なんかもっとこう、鳥肌が立ったり吐き気がしたりするかと思っとったが、案外なんとも無かった。いやでもしかし、朝起きて隣にごっつい男の腕とか背中を 見ると、なんでこんなこ とにと愕然とすることはある。おまえ、指は細いけど手は俺よりでかいしな。それに、上に乗られると結構重い。」
「なんだよそれ!」
伯爵は猛然と少佐に(続く)
丁度コーヒーを淹れたところでした。
返信削除おいしくいただきました。 ありがとうございます。
北沢様、コメントありがとうございます。耽美はK姉、優雅はM嬢にまかせて、私は体育会系リバに精進することにします。北沢さんちの上品な伯爵にも、もっと会いたいなあ。
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