このサイトについて

このサイトについて: 私自身が30年来のファンであり、また海外のslash fandomの一角で80年代から現在に至るまでカルト的な人気を擁する、「エロイカより愛をこめて(From Eroica with Love)」を題材とした、英語での厖大な二次創作群を紹介・翻訳しています。サイト管理者には原作者の著作権を侵害する意図は全く無く、またこのサイトにより金銭的な利益を享受するものでもありません。「エロイカより愛をこめて」は青池保子氏による漫画作品であり、著作権は青池氏に帰属します。私たちファンはおのおのが、登場人物たちが自分のものだったらいいなと夢想していますが、残念ながらそうではありません。ただ美しい夢をお借りしているのみです。

注意事項:
 原作の内容を大幅に逸脱し、男性間の性愛を主題にした明らかに性的な内容を含みます。不快感を覚える方は画面をお閉じ頂けるよう、お願い申し上げます。

2012/11/23

陳腐な設定から何が生まれるか


  
勢いで訳せてしまったので、来月をまたずに公開可となりました。一挙に二篇です。  



  
From Eroica.
by Kadorienne

【警告】上記のリンクには成人向けコンテンツが含まれている可能性があります。
 18歳未満の方、または公共の場所からのアクセスはご遠慮ください。

日本語訳はこちら


 “It’s just that, I really believed that underneath, you secretly loved me.”
            
Klaus sighed, very deeply. And answered, very softly, still staring at the ceiling. 
“I do.”

無茶苦茶陳腐ですよね。そのとおりです。だからこそ、伯爵にこう言わせ、少佐にこう答えさせるためには、あの凄惨な前半が必要だったのです。 






  
The Devil He Knew
by Kadorienne

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わたしたちは狼狽も恐怖も、ましてや羞恥や自責などを感じる必要はなく、ただ激怒だけを抱けばよいのです。私はそう受け取りました。


2012/11/17

「少女漫画のヒロインたち」


 
 
日経新聞では毎週金曜に藤本由香里氏の「少女漫画のヒロインたち」を連載しています。

第三回の昨日分は24年組、萩尾望都から始まり、とうとうこんな文章に続きます。

また、竹宮惠子『風と木の詩』は、その後「やおい・BL(ボーイズラブ)」と呼ばれて新しいジャンルを形作っていく「男どうしの愛」を描いた作品の原型として、「ジルベールとセルジュ」という<究極の対>たる二人の少年の姿を創造した。

おっさんメディアの日経で「やおい」とか…。感無量。

一方で、「少年」ではなく「青年」を主人公にしたスラップスティックコメディ、青池保子『イブの息子たち』『エロイカより愛をこめて』、長寿ギャグ漫画である魔夜峰央『パタリロ!』なども、系統は違うが「男性」を主人公とした少女マンガの人気作品である。いずれも「性別越境」の要素をその基底に持っていることに気付かされる。

エロイカへの言及もありました。↑むふむふ。
  
  

2012/11/16

「二次創作は詰将棋」論


  
  
  

論というほどのものではありません。タイトルのみで結論。『将棋』という世界観、枠がすでにあり、受け手には自明のものとして理解されているという前提の上に、ある限定された状況でそれぞれの駒がどう動くか、その局面をどう打破してゆくのかを突き詰めた思考遊戯が詰将棋です。

二次創作も同様に、受け手に自明のものとして理解されている世界観の中の、ある限定された状況で登場人物たちがどう動き、その局面をどう打破してゆくか、あるいはできないかを突き詰める思考遊戯と言えます。例えば私の『昼と夜とすべてと』は、まさにその「打破できないこと」をそのものを主軸に据えて書きました。(←いちばん気に入っているが多分いちばん嫌わてそうな作)

例えばこういう思考遊戯があります。限定された状況を、任務中に東側に拘束された少佐と伯爵と設定します。拷問と強xを受けた二人はどうなるのか?

こういう設定を英語/仏語でclichéと言いますね。フィクでもよく自虐的に使われます。私もちらっと考えたことがあります(こちら)。ですが、私のようなヘタレは痛いことを考えるのがツラいので、冒頭を書いただけでさっさと退散してしまいます。 

一方、たかが二次創作とはいえ優れたフィクの書き手というのは、そこでは終わらなかったりするわけです。終わらなかった場合には、たとえ遊戯であれ表現の試行錯誤には書き手の人格が投影されます。遊戯を越えた思考実験が、書き手という人間を逆にあぶり出すことになります。

来月はその思考実験を二作、ご提示しようと思っています。書き手は陳腐な設定から何が起こるかを突き詰めて考えた。その結果、凄惨な体験と引き換えにしか口にできなかった質問を登場人物の一方は発し、もう一方はたった一言でそれに答えます。結果として、単語にしてたった二語のその一言のためにこのクリシェはフィクとして成立した。読み手としてそのような気がしてなりません。

もうひとつは強xされるという体験の克服。自分の置かれたジェンダーをまじめに考えたことのある女性にとっては、それは他人ごとには成り得ないテーマだと思うのですが(私たちの性は社会的に強xされ続けているという言い方もできます)、書き手はエーベルバッハ少佐という類まれなキャラクターに仮託して、そのことにひとつの解法を与えています。

皆様どうぞお楽しみに。
  
  
  

2012/11/15

Can't Buy Me Love - by Anne-Li


   
   
前翻訳に続き、「はじめてのデート」つながりでこちらをどうぞ。


Can't Buy Me Love
by Anne-Li


日本語訳はこちら




こちらもまた原作の二人の性格設定に見事に再現したフィクで、不自然なところがありません。タイトルはビートルズの名曲「愛はお金じゃ買えないよ」から。私はこういう肩のこらないお話も大大大好き。一転してコメディでで、二人の掛け合いに大笑い。作者様の注意書きでは「70年代から80年代前半の設定とする」とありますが、絵的にはむしろ最近の絵で思い浮かべたほうがぴったり来るかも、と思いました。

ふたりがくっつく前のお話は、数限りなく読みたいですね!。余裕たっぷりの伯爵と、慌てまくって汗をかいて牙をむいてる少佐の組み合わせは、読み飽きることのないものです。スリッパで床を叩きながら転げまわりたくなるような(←わけがわかりません)結末を迎えますです。

<以下ネタバレあり注意>










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一日エスコート権をつけて男性を競りにかけるチャリティーオークションという、日本人のわれわれにはなじみのないお話の設定ですが、あながち荒唐無稽というわけでもないのかな? 私は20年近く前にインターナショナルスクールに通う高校生から、チャリティーイベントでこれと同じことが行われるという話を聞いた記憶があります。もしかするとアメリカの学園ものドラマとかでは定番のイベントだったりするのでしょうか。(全く見ないのでわかりません)

どうしてフォン・デム・エーベルバッハ少佐が窮地に陥る話というのはこんなに面白いのでしょう。追い詰めているのが伯爵というところが素敵。


私が大笑いしたのは二箇所。
He couldn't win for losing, could he? "Look - I'll give you a painting, how about that? A nice ... colourful painting. That one with the fat, indecent angels--"
"Cupids."
"-- and the woman barely covering herself with the flowers. You can have it - just don't make a fool of me tomorrow!"

芸術オンチの少佐と、それが当たり前すぎて、もはやからかいもしない伯爵の掛け合い。原作に出てきても違和感ないシーンです。


そしてここ。

However, as if sensing Klaus's apprehension, Dorian mouthed, "Don't worry - I won't." Then he frowned. "You don't have to put on a show, though, you know." 
Klaus wondered if he had misread the lip movements. Of course he wouldn't put on some kind of show! This wasn't a bloody talent competition! Which was kind of bad, in a way, because he wouldn't have minded holding the comfortable weight of his Magnum to display his very best talent, with the hungry way the women stared at him. 
"You are most tempting, that way," Dorian continued. "Relax, soldier." 
Klaus blinked, then quickly stepped out of his tense stance and brought his hands forward, rather than resting them on his lower back. A disappointed noise went through the crowd. He had to make a conscious effort not to cover his crotch. He wouldn't thank Dorian for the heavy hinting, but felt a little grateful all the same.

ふたりがマチュアな成人男性であることをありありと感じさせる描写であると同時に、作者様自身ががマチュアな成人女性であることもうかがわれて、にんまりしました。にーっ。


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ところで、"Ninni"という名前ははじめて見ました。baby nane finderなどで探すと、Ninnie"という名前ならありました。これだと"ニンニィ"という感じ?1800年代後半のアメリカなどで時々見られる名前とあり、思いついて"Ninni"でスウェーデン語に検索を絞るとたくさんありましたので(もちろん私には全く読めません)、作者様のお国では一般的な名前なのかもしれません。腐女子的には、読んでてNinniに自分を投影しちゃいますよね~。


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なお、1ユーロは1.95583ドイツマルクとのことなので、17,300マルクは8845ユーロ、ただ今落ちまくっているユーロですので90万円弱、というところになります。計算あってる?
  
  

2012/11/02

エピローグ。やっと完結です。

第13回はエピローグ。やっと完結です。





By the Pen - Peripeteia

日本語訳はこちら


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それにしても名作ですよね、うんうん(口元がにんまり)。初期の原作に過不足なく即した人物造形、背景設定に無理がない上に思いがけない展開が続き、見せ場は申し分なくエロティック。二人は紆余曲折の後に落ち着くところに落ち着く気配を見せ?、しかし例によって小競り合いで火花は散らしつつも、これから先の展開を感じさせる幕引き。あー、いいもん読んだよなー。幸せー。しあわせ~。

長編であり、全体を通じた翻訳文の推敲ができなかったので、冒頭と中盤以降では二人の名称にかなりのばらつきがあります。最初は英語フィクらしく「クラウス」「ドリアン」でしたが、最後には私達に慣れ親しんだ「伯爵」「少佐」になってきた。最後でまたもや「ドリアン」「クラウス」になる部分がありますが。あとで読みなおしてぼちぼち手を入れるかもしれません。