このサイトについて

このサイトについて: 私自身が30年来のファンであり、また海外のslash fandomの一角で80年代から現在に至るまでカルト的な人気を擁する、「エロイカより愛をこめて(From Eroica with Love)」を題材とした、英語での厖大な二次創作群を紹介・翻訳しています。サイト管理者には原作者の著作権を侵害する意図は全く無く、またこのサイトにより金銭的な利益を享受するものでもありません。「エロイカより愛をこめて」は青池保子氏による漫画作品であり、著作権は青池氏に帰属します。私たちファンはおのおのが、登場人物たちが自分のものだったらいいなと夢想していますが、残念ながらそうではありません。ただ美しい夢をお借りしているのみです。

注意事項:
 原作の内容を大幅に逸脱し、男性間の性愛を主題にした明らかに性的な内容を含みます。不快感を覚える方は画面をお閉じ頂けるよう、お願い申し上げます。

2011/08/30

NATOって、何をしてらっしゃるのでしょうか。

 
子供のときにニュースを聞くたびによく思ったのは、「アナウンサーの人は『北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国』と『NATO、北大西洋条約機構』を、あだ名と名前の両方を言わないと怒られるのかなあ。」、でした。
  
最近ニュースでNATOをよく訊くのはリビア関連ですね。Wikipediaによれば、NATOがこれまで介入したのは、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、コソボ紛争、アフガニスタン紛争 (2001年-)、2011年リビア騒乱。このうちアフガンでは2006年7月から、西側の軍事行動の全権限を米軍から委譲され、NATO以外を含める多国籍軍を率いて主にアフガン南部でタリバンとの戦闘を継続しているそうです。「エロイカより愛をこめて」 の第一話が発表されたのは1976年。アフガン紛争はその二年後の1978年に勃発しています。長丁場ですね、双方。私はアフガニスタンのかなり近所まで行ったことがありますが、生きているうちにカイバル峠を越えるチャンスはたぶん無いでしょう。残念です。

さて現実に少佐がいたら、どんな部門でどんな任務についているのでしょうか?

昨夜読んでいた本に、意外なところでNATOの名前が出てきました!

文明崩壊 ~滅亡と存続の命運を分けるもの~
ジャレド・ダイアモンド著 楡井浩一訳 草思社


上巻 311ページ

わたしが初めてアイスランドを訪れたのは、NATO(北大西洋条約機構)の主催した環境被害の生態学的回復に関する会議に出席したときだった。NATOが会議の場にアイスランドを選んだのは、実に適切だったと言える。アイスランドはヨーロッパで最も生態学上の被害が大きかった国だからだ。


そんなこともやってるんだ、 NATO! アイスランドで、またしても団体さんの受付接待をしているハンス・シュミット氏(愛妻家)を思い浮かべちゃったよ!

(冗談はさておき、この本は大変お勧めです。)

翻訳のお部屋002

 
これがどうにもこうにもうまく訳せないの・・・(涙

Klaus spent half a second considering whether Dorian feeling sorry for him was preferable to Dorian trying to drag him into bed before deciding that his real preference was for Dorian on another continent.

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半時間ほど、別のことを考えながらチョコレートをひとかけら口に入れたら突破口が。

Klaus spent half a second considering whether
考えるのに、クラウスは半秒ほどを費やした。

Dorian feeling sorry for him 
自分を哀れんでいるドリアンと、

was  preferable toDorian trying to drag him into bed
自分をベッドに引きずりこもうとしているドリアンのどちらがマシなのかを

before deciding that his real preference was for Dorian on another continent.
本当に望ましいのは別の大陸にいるドリアンだと結論付ける前に


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直訳すると:

「真に望ましいのは別の大陸にいるドリアンだと結論付ける前に、自分を哀れんでいるやつとベッドに引きずりこもうとしているやつのどちらがましなのかを考えるのに、クラウスは半秒ほどを費やした。」



そして原文どおり結論を最後に持ってくるためにセンテンスを分割して意訳を入れると:

「自分を哀れんでいるドリアンとベッドに引きずりこもうとしているドリアンのどちらがましなのかを考えたが、結論までには半秒とかからなかった。真に望ましいのは別の大陸にいるドリアンだ。」



2011/08/28

【海外フィク翻訳】Ask Doctor Gloria - by Anne-Li

 


Ask Doctor Gloria
by Anne-Li

Anne-Li's Slash Page - Ask Doctor Gloria



"ボンにいる。ひとりだ。" - それじゃまるで新聞の一行告知みたいだ。ドリアンは考え、にんまり笑った。法執行機関と戦車と諜報活動を主な興味の対象とする武器のエキスパート。長身。走り、撃ち、煙草を吸い、ネスカフェを愛飲する男。その男が、意味深な関係と桁外れなセックスのために泥棒貴族を求めている。「ボンにいる。ひとりだ。」返事は・・・

残念ながら本日のところは、ボンに一人でいるのは長身の武器エキスパートではなく、むしろ泥棒貴族の方だった。彼はボンにいた。ボンに。ひとりで。たったひとりで!

これはめったにないことだった。平和と静けさをどうしても必要としている自分に気づいたときには、彼はジェームズと他の仲間たちからこっそり離れる必要があった。そうするのは常のある種の骨折りごとになってしまうので、彼としてはめったにやる気にはならない。しかしながら本日は、予想もしなかったことに単独行になってしまったのだった。ジェームズはベッドでうなっていた。たぶん、夕べの蟹料理で食中毒だ。急な旅に同行していたルディは、今日は病床の小柄な会計士の手足となって待機中。ドリアンは密かに疑っていた。ジェームズは本当のところ世話をされるのを楽しんでいるのではなかろうか?だから寝たままで、いつのように抜け目無く計算高くないのでは?というわけで、ドリアンはこっそり抜け出した。。「ちょっと外の空気を吸ってくる。」彼はルディにそう言い、ルディがそれをジェイムズに告げる前にダッシュでその場を離れた。

彼は自由だった!PoststrasseからMünsterplatzへ、それからSternstrasseへ(訳注:いずれもボン市内のストリートの名称)、どこへいくというはっきりした目的地もなくふらふらと足の向くままにさ迷うのも自由なら、目に付くものならあれもこれもなんでも取り上げるのも自由。

うーん、 なんて魅力的なシャツ!ジェームズ君なら絶対買わせてくれないよ!でも今日はジェームス君はいないのさ!だからこれは私のもの。わお!なんて素敵な手袋!ジェームズ君なら絶対買わせてくれないよ!ふふふふふっ!でも今日はジェームス君はいないのさっ!だからこれも私のもの!あああ - なんてかわいい小箱だろう・・・!ジェームズ君なら絶対買わせてくれないよ!ふふふふふふふふふ...

しかしながら、どんなに素晴らしきことにも終わりがあるものなのだった。遅かれ早かれ。ま、ちょっと休憩が必要なのかもしれないが。とにかく、ドリアンがもうこれ以上持てないというところまで荷物を増やしてしまったのと、かすかな空腹を覚えたのが同時だった。そこで彼は、持ち合わせの最後のドイツマルクを使って、滞在中のRheinhotel Dreesenまでタクシーに荷物を届けてもらおうと考えた。

荷物を載せたタクシーが角を曲がって消えたとき、彼は気が付いた。あっ、最後のドイツマルクを使っちゃった・・・。そしてまた、彼はスターリングポンドも1ペニーすら持っていなかった!さらにまずいことに、彼はますます空腹を覚え始めていた・・・。今考えると、ボンは巨大な都市というわけではなかったから、彼は歩いてでもホテルに帰れた。いや本当に。ただ・・・それにはほとんど二時間ぐらいかかってしまうだろうし、たどり着いたときには本日のささやかな戦利品を見て怒り狂ったジェイムズが、彼を待っているというわけだ。それは空腹をやりすごすに魅力的な想定とは言えなかった...

彼は歩き出し、なんとか対応策はないかと考え始めた。街は突然様相を変えたようだった。普段ならドリアンの注意を引くはずの店より、魅力的な小さなレストラン、コーヒーショップ、ベーカリーをそこここに見かけた。あらゆる種類の素敵な匂いが漂ってきた。彼はためらいながら、できることを考えた。食べ物は、彼が盗んだことのないもののひとつだった。料理は余裕もって饗されるために、料理されるべきだった。彼はまた、"食い逃げ"とやらを試してみるには目立ちすぎる容姿だった。ドイツには未執行の令状はなかった。たとえそれがレストランでの不正飲食ではなかったとしても、Rogues' Gallery(犯罪者年鑑)に一度でも顔を出してしまえば、その汚名は注げない。

もしかするとフォン・デム・エーベルバッハ少佐にちょっと挨拶にいくのもいいかも知れない。多分少し待たされるかもしれないけれど、いいじゃないかか。もちろん仕事中なんだろうし。昼食をご馳走してくれたら、次の任務に協力するよ?とか。うーん…いや、だめだな。私がランチデートで落ちちゃうなんて。この思いつきは大いに彼を楽しませたが、彼のダーリン、最愛の少佐は、むしろ彼を射撃訓練の的にする確立のほうが高そうだとわかっていた。

加えて、NATOの建物も徒歩ではたっぷり35分の距離、ホテルよりもはるかにマシとは言いかねた。

Sparkasse銀行の、赤のSの上に丸のついた看板が目に入った。彼はぱっと笑顔を輝かせて、銀行に向かった。歩きながら財布を取り出し、ドリアン=ロート=リューム名義のパスポートを確かめた。その名義の口座番号を復唱し、再び財布をポケットにしまい込んだ。ロート=リュームの口座には数百マルクは入っているはずで、それはまともな食事をとってホテルに戻るのは十分なはずだった。それにもしかしたら、銀行のそばのあの宝石店を素早く訪問できるかも?もしかしたら。彼は宝石店のウィンドウディスプレイをちらっと眺めてみた。もしくは、戻るのが夜になってもいい。少しぐらいジェイムズの看護を離れても、彼は死にはしないよと、ルディを説得できたら。彼はいつもは小さな宝石店での窃盗はやらなかったが、今は休暇中なのだし、少しぐらいの例外は許されるだろう。盗むのはたったひとつだけ。なにかひとつ、かわいらしい小さいもの。そして例の彼のカードを残していく。ひょっとすると。もしかしたら、何が起こったのか数日間は誰も気が付かないような小さなできごとになるかもしれない。とはいえ、彼がボンでしでかす罪なき小さな何事にも、少佐は苛立ちを隠さない。

彼は銀行に入った。そこはかなり大きい支店だったが、それほど混雑していななかった。二箇所のカウンターに、七人の客がばらばらに並んでいるだけだった。彼は右側に並んだ。ドイツで列に並ぶことがこんなに不愉快な体験になるなんて。彼の前に、かすかに酸っぱい体臭の、背の低い頭のはげた男性が立っていた。ドリアンは少し距離をとった。その男の前には、なにやら機嫌悪そうな顔つきで壁の時計をにらんでいる女性がいた。もう一方の列の一番前にはスーツを着たぽっちゃりめの男性、その後ろには若い男女がいた。彼らは何かを議論していた、というより、彼は生き生きと話していて、彼女は時折微笑んでうなずいた。二人とも大きな茶色の袋を持っていた。その列の最後にいるのは60代前半思しき​グレーの髪の、姿勢のいい男性だった。彼はドリアンが入店するなり興味津々の表情でドリアンを見つめ、いま列にいる間もちらちらと見ていた。ドリアンは気にしなかった。 彼は、人々が彼から目を離せなくなってしまうことには慣れていた。

それに、彼は年のわりにはかなりハンサムな紳士だ。 でも今はね、...ああ、なぜカウンターの処理がこんなに遅いのか。とにかく、このあの一番近いレストランに行こう。働いていたあの青年がなかなか素敵だった。彼をからかって、すこしチップをはずんであげよう。あの青年がどぎまぎしてくれると嬉しいな。時々クラウスがそうしてくれるように。それともこちらの遊びに乗ってくれるタイプかな?もしかするとうなり声げて私を警戒する?それも悪くない。

とはいえ、仮にウェイターが他の多くの男性と同じようにドリアンの魅力に参ってしまいそうであっても、ドリアンはその誘惑をその先まで実行する気は無かった。それはこの数年、彼が決してやらなかったことだった。彼の頑固で素敵な人、あのドイツ人に求愛し続けているこの数年の間、ずっと。 そう、意味が無い。この言葉を聴きたいとどれほどせつなく狂おしく願おうが、"Stoß mich fester, du verdammte Schwuchtel!"、それはあのドイツ人自身が歯軋りしながら言うのでなければ意味が無かった。その他の誰であろうが、意味を成さない。

ぽっちゃり男はが財布にマルク札を押しこんで、列を離れた。すばらしい…これ列の進み具合ときたら、捻挫したカタツムリよりもまだ遅い。ドリアンはため息をついた。朝食以来ほとんど何も食べていなかったので、胃が小さく痛んだ。

それはカップルの女性のの番になったときだった。彼女は機関銃を取り出し、振り回した。「我々は銀行強盗だ!」彼女は響き渡る声でそう宣言した。「我々は誰も傷つけたくない!壁に沿って床に座れ!手を前に出せ!」

「For it was Bonnie and Clyde, weapons in hand ...(ボニーとクライド、手に武器を持って...)」ドリアンは、古い俗謡の歌詞はどうだったを思い出しながら、心の中で歌った。銀行強盗は、惨めな結果に終わりそうなことが明らかだった。カップルは、とてもプロには見えず、ドリアンはそれを残念に思った。彼等が、ドリアンがコネクションを作るべきタイプだったら。誰かを知っているか、誰かを知っている誰かを知っているか、何かを知っているか。どにかくそういうタイプだったらねえ。彼らがずぶの素人のようだったので、彼にできることは何もなかった。

銀行にきていた客は人質となり、警察は外から人質の解放交渉その他一切をこなすことになった。ドリアンは落ち着きを崩さないまま、強盗の女が指示したとおりに座り込み、次に起こることを待った。グロリーア伯爵が厄介な状況で取り乱したなどと、誰に言わせるはずもなかった。

彼と年配のドイツ人は出口から最も遠い場所で、安心とはややいい難い情況に陥った。そのときドリアンは、男性がやはり時折自分を盗み見しているのに気が付いた。彼は徐々にじっとドリアンを見つめるようになり、かつすぐに目を逸らさなくなった。

悪くない気分だった。私の何が彼をそうひきつけたのだろう。しかもこんな危険な状況下で。

アマチュアがこういうふうに強盗を自称することこそが、もっとも危険であることを伯爵は知っていた。とはいえ、その道のプロというのも今は姿を見せなくなって久しいのだが。プロというのは表に出ないものなのだ。プロならもっと、プロらしい顔つきをしている。

その年配の紳士が彼の方を見たとき、伯爵は明るい笑顔で会釈を返した。男性はドリアンの好みにしては余りにも年配すぎたし、ドリアンはすでに心のすべてをたった一人のドイツ人に捧げていたし、そのドイツ人と一対一の関係を築こうと決意していた。ドイツ人が彼自身のささやかな抵抗を克服して、自分ををドリアンの前に投げ出してくれさえすれば。・・・が、罪の無い遊び心に傷つくものは誰もいない。ドリアンが彼に微笑みかけることで、年配の紳士は今日一日いい気分でいられるかもしれないし、ドリアンはそもそも他人を喜ばせるのが好きだった。どちらにしろ、彼はそう頻繁にボンに来るわけではないので、たぶんこの男性に会うことも二度とない。

「非礼をお許しいただきたい。」と、男性はほとんどささやくように言った。

「いいえ、何をなさったわけでもありませんよ。」ドリアンはほんにわずかに返答をためらったが、そう答えた。彼も低い声だった。こんな状況下で、余計な注意を引きたくなかった。

「あなたはドイツ人ではないでのですな?」

どうやらドリアンのドイツ語は。時おり自称するほど流暢ではないらしかった。「ええ、私は英国から来ております。」

「ああ…私たちの言葉を話されるのですね。」

「あなたと同じく。」

「耳障りでしょうな。ご寛恕いただきたい。私はほとんど英語を使う機会が無いので。」

「ああ、いや、少しも気になりませんよ。」それにドリアンはむしろ、クラウスがドイツ語ではなく英語で彼を呼ぶことに慣れていた。十分に流暢な、しかし微かにそのドイツ語の美しい硬さを秘めた英語で。この男性はアクセントはそれよりはやや濃かった。だがクラウスが熱くなったときには、彼の英語もこんな風になるにちがいない。例えば・・・。ああ、そうそう、"Schieb ihn mir rein, du Idiot!"、など。

「あなたはずいぶん冷静に状況を判断しているようだが。」

「まあ、ヒステリックに騒いでも無駄なことですしね。パニックをおこしても、なんに役にも立たない。」

「まさにその通り。あなたを見ていたのは、私はそういう男性を見たことがなかったので...つまり、こんなにカラフルな格好の。」

ドリアンは自分で自分の服装を見下ろした。そう、今朝の着替えの時には色鮮やかな服が着たい気分だったので、やや人目を引く身なりであることは確かだった。どう答えていいかわからなかったので、にっこり笑って肩をすくめるにとどめた。

「ええと、」男性は言葉を続けた。「実は...実のところ、あなたに、その、・・・お伺いしたいことがありましてな。・・・質問を・・・お許しいただければ・・・私はあなたを侮辱するつもりはないのです。ええと…」

ドイツ風の「ええと・・・」はドリアンを魅了した。それはクラウスが時々つぶやく言葉だった。彼が躊躇したり、大股歩きを止めて考え込んだりする時…。どちらもめったにないことではあったが、しかし常にさらに検討する価値のある情況のとき。そこで、ドリアンは再び微笑んで首をかしげ、続きを待った。この間、彼は銀行強盗を常に視界の中に入れていた。彼らは銀行の入り口正面に向かって立ち、なにやら口論していた。素人だ...と彼は思った。素人くさくない点といえば、こんなふうに会話を交わして脱走を計画しているかもしれない人質を、比較的寛容に扱っているとう点だった。 チャンスを見つけるとすればここだったが、今のところどんな風にという考えは見えてこなかった。

「繰り返しますが、私にはあなたを侮辱する意味はありません。しかし、あなたは... 」

突然ドリアンは理解し、大声で笑いそうになった。こんなことを訊かれることはめったになかった。たいていの場合、そう思っても口に出さないものだ。しかし、この男性は・・・? 「同性愛者という意味ですか?ええ、その通りです。」彼はそれが初対面の相手に最初に口に出すにふさわしい単語であるかやや迷ったものの、相手が十分に礼儀正しいと思われたために、むしろ率直にそう答えた。

男性のは瞬きをして視線を泳がせたが、ややあってうなずいた。「それをお訊きしたかったのです。あなたの服装と、それから雰囲気で、私は・・・。私には確信がありませんでした。というのも、あなたはさっき、ええと・・・。」

「機関銃を見て悲鳴を上げなかったからですか?」

男は真っ赤になった。「気分を害されたでしょう。私の謝罪をお受けください。」

ドリアンはくすりと笑った。「いえいえ、たいていの人は事態を悪いほうに考えますからね。どうかお気になさらず。」

どうやら男性は、自分がドリアンに失礼なことを言ったと考えているようだった。ひょっとすると疑問を確認したかっただけなのかもしれなかった。彼等は長い間黙ったまま座っていた。ドリアンには、ドイツのボニーとクライドのが何を待っているのかよくわからなかった。彼はクライドと視線を合わせようと試みた。もしかしたら、彼の魅力に引っかかってくるかもしれない。だが強盗の男は視線をきょろきょろとさまよわせていて、彼にはその視線を捕らえることはできなさそうだった。

「何故ドイツにお越しなのかな?」隣のドイツ人男性が、低い声で突然訊ねてきた。どうやら彼も、この会話で銀行強盗の注意を引きたくないらしかった。

愛、というのがドリアンの唇に上がってきた単語だったが、その答えはすこし私的すぎた。そしてまた、(私はあなたの国の息子たちのうち、最高の一人を征服するために来ています。)・・・というのも、現状を考えるとそぐわないように思われた。「仕事です。私は美術愛好家ですので、その収集と...移転...」

「ああ、当然ですね。」

ドリアンは笑顔を引き締めた。それがドイツ語のアクセントだったからかもしれない。同性愛者たちに対する微かな侮辱になりうる発言を大目に見たことで、彼は自分自身ややたじろいだ。男性は、同性愛者なら芸術関係の仕事だろうと、無意識にのうちに自動的に分類したのだった。

強盗のうちの若い女の方が、相棒の男に何か文句を言い始めたとき、ドリアンはひどい空腹感を覚え始めていた。彼は食事のことを考えようかと思ったが、やめておくことにした。さらに空腹になりそうだった。強盗の男女は、ふたりとも非常に緊張した様子だった...。当然だ。ボン警察の半数の人員が正面ドアの前で待機している。

「すみません・・・。」犯人の男女がなにやら話し合っているのを見て、彼の隣の男は静かに話しかけてきた。「別のことを質問してよろしいかな?」

ドリアンは彼の方を向いた。「もちろんですよ。今の私達に、それよりましなことが何かできますか?」彼は陽気に笑った。

「いや・・・ああ…ええと...、あなたは誰かが同性愛者かどうか、見て判るのかな?」彼の鋭い灰色の目が細かく揺らいだが、その後、決意を持ってドリアンの目を見つめた。

「いいえ、彼が今日の私のような孔雀のような服を着ていない限りは。」ドリアンは優雅なしぐさで自分の服を示しつつ言った。「時には、そういう服でもわからないことはありますね。また、推測したり疑ったりすることもある。それから、時にはあまりも露骨にそうだったりすることもある。でも、実際には難しいですね。」

男性は失望したように見えた。「なるほど。お答えていただき感謝する。」

「どういたしまして。」

「あなたはいったいいつ、自分がそうと自覚なさったのかな?・・・その、同性愛者だと。」強盗たちが携帯電話で外の警察との交渉を始めてから、15分ほどがたっていた。男性はどうやら、ドリアンが質問を迷惑に思っていないことを察したらしく、今回の質問に先立っては、遠慮深い許可を求めなかった。

ドリアンは、本当に気にしていなかった。彼がさっき言ったように、他にすることは何もなかったし、この男性との会話は現状と空腹感をとりあえず忘れさせてくれた。「その単語を知る前から、もうそうじゃないかと気づいていましたね。」

「ご両親にそれ伝えるのは、難しかったでしょうか?ええと、もちろんあなたがすでにそれを伝えていると仮定して。」

ドリアンは瞬きをした。「たぶん、両親に言ったことは無いと思います。」

かれがそう答え終えるまえに、男性は素早く聞き返した。「それを秘密になさっているのですか?」

「このことを真面目に話し合うような歳になる前に、私の父は亡くなりました。」かれは答えながら、そういえば両親かどうかを問わず、誰であろうとこんなことを話し合ったことはないと思い出した。「というより、父自身が同性愛者でしたので、彼はどちらにしろ知っていたと思います。母は…母は父と離婚していて、父の死後に彼女が私に再び注意を向けるまで、長年に渡ってめったに母とは会っていませんでした。そう・・・、彼女は知っているでしょうね。」そして彼は、もう二年以上も母親と会ってはいなかった。

彼らは再び黙り込んだ。

ドリアンの胃の痛みは緩和し始めていた。多分、体内時計が誤解して、彼がアメリカや中国やオーストラリアへ旅行中で新しいタイムゾーンに慣れるよう調整中だと考えたのだろう。

「私は息子がおります。私はこれまで、会ったことがないのです。その...同性愛者に。だから、誰にも聞けなかったのですよ。この疑問を。あなたにお伺いしたのは、そういう事情なのです。」

「ああ。」ドリアンは言った。「あなたは、息子さんが同性愛者じゃないかと考えているのですね?」彼は声を低くしたままで訊ねた。外のパトカーのサイレンが、会話のためには少し邪魔ではあったが。彼は、強盗のうちの女性のほうがさっき自分たちをちらりと眺めたのに気づいていた。だから、これ以上注意を引くようなことはしたくなかった。しかし今、彼女はちょうどトイレに行っていた。彼女の仕事仲間は、やや注意が足りないようだった。

男性は赤面し、はっきりとうなずいた。「彼は興味を持っていないようです。女性には。」

「なるほど。そうですね、息子さんははただ性欲があまり強くないタイプなのかもしれませんよ。そういう男性もいます。気の毒ながら。それで、もし息子さんがあなたの思うとおりなら、なにか困ったことでも?」

「彼がどうであれ、私の息子です。私はそれでも・・・。」彼は言葉をとぎらせた。「私は彼の成長期に一緒にいてやれなかった。その後・・・、私と息子が親しくできたことはなかったのです。彼はこういうことを私には打ち明けてくれんだろうと思う。私には、どう切り出していいのかわからん。なんと訊けばいいのか。」

ドリアンは理解をこめてうなずいた。「息子さんを愛しておいでなんですね。」彼は優しく言った。それ以外にどう答えていいか思いつかなかったので。ああ、このストイックなドイツ男性ときたら、心の問題を語るのになんと困難を覚えているのだろう。「でも、やはりそれが気になるのですか?少しでも?」

「私は年老いた。孫が・・・孫の顔が見たいのだ。」

「お子さんはお一人ですか?」

「ああ。母親はあれがまだ幼いころに死んだものでな。」

「それは・・・お気の毒なことでした。お悔やみ申し上げます。」

男はうなずき返した。「その後、私は少し普通ではなかった。息子の元を離れたのはそのせいだ。息子は妻そっくりで、やつの目は妻の目そのものだった。そのものなんだ。私はその目を見るのがつらかった。息子にとっては不公平な話だ。私にはわかっている。わかっていたのだが、しかし。」彼は一気にそこまで語った。最初の単語から後、ためらうことなく言葉が続いた。それでもなおドリアンは彼の緊張を感じ、何とか手助けをしたいと考えた。

「それはとてもよくわかります。私には。」彼はそう言った。少なくとも、その感情なら彼にはよくわかった。「あなたの息子さんも同じようにおっしゃると思いますよ、今のあなたの言葉を聞いたら。」

男性はそれには同意できないという身振りで、肩をすくめた。

「あの、ミスター…?」ドリアンは続けた。

男性は目を細め、彼をじっと見つめた。それから男性は何か覚悟を決め、緊張したように見えた。「この情況は、全く通常ではない。私は普段ならめったにそうすぐには申し出ないのだが、...私をヨーゼフを呼んでいただけないだろうか。ハインツ・ヨーゼフが私のファーストネームなので。」それから彼は目に見えて躊躇しつつ、強盗の目から自分たちの体で隠しつつ、手を差し出した。

うれしい驚きとともにドリアンはその手を取り、握り返した。「ではあなたは私をドリアンと呼んでくださらなくては、ヨーゼフ。」彼は答えた。新しい知人 - 旅先でよくあるお遊びの相手ではなく - 知人を得たことに喜びを感じながら。お遊びの相手なら数え切れないほどだったがが、知人となるとほとんどいなかった。しかもそれがドイツ人だとあれば、なおさらだ。

「ドリアン。」ヨーゼフは言い、知己となったことを認めた。彼らはまだ友人ではないかもしれなかったが、これで双方に敵意を持たないことは宣言された。

「ヨーゼフ、私が言いたかったのは、私自身は子供を持つことを考えたことが無いけれど、同性愛者である友人のうち何人かは父親になりたいという強い本能を持っているようです。あなたの息子さんについて言っているわけではありませんよ。息子さんがそもそも同性愛者であるかないか、あなたにもわからないわけですから。」

事実としてはそれはめったにないことだったが、最後の言葉は真実だった。誰にもわからない。そして彼は、ヨーゼフが持ちえるかもしれない新たな希望を打ち消してやりたくはなかった。「なぜかというと、私にはピーターという友人がいて、彼は幼馴染との間に娘をもうけているのです。彼らは幸せに過ごしていますよ。それに、先ほど申し上げたように、私の父は母と結婚して、私と三人の姉を得ました。私は本来の性向に基づかない結婚は決してお勧めしませんが・・・、私はただあなたが可能性を完全に排除する必要はないのではないかと言っているのです。」

「しかし、つまりそれは彼が・・・しなければならないことを意味する...つまり、女性と!それは無理なのではないだろうか・・・やつは本当に...ええと・・・。」

「それについても方法はいくつかありますね。それに、養子縁組という方法もありますし。ええ、それは不可能ではないでしょう。申し上げたとおり、私は同性愛者ですが、ヨーゼフ、私自身は・・・そうですね・・・。」彼はすべてを払いのけ、そしてくるりと取り囲むような身振りを示した。「女性とすることも可能でしたよ。」

「Was?!(なんだって?!・ドイツ語)」

銀行内のすべての目が彼らに向かっていた。ドリアンは視線に答えた。「我々は、政府について議論してだけです。」彼はできるだけ罪のない表情で、彼らにそう言った。

「やめろ!」銀行強盗の男が言った。「静かにしろ!誰もしゃべるんじゃない!」

「もちろんさ。申し訳なかったね。」ドリアン後悔の響きを声ににじませながら言った。彼は意味深な瞳を強盗の男のほうに向けたが、男はさっと目をそらせた。抑圧されたドイツ人がもう一人?と思っていいのかな?

その後、女性の銀行強盗が帰ってきた。二人は抱き合ってから話し始めた。ドリアンは途中で途切れた会話を再開させる前に、たっぷり10分は待った。

「それは衝撃の体験というほどでもなかったですね。」と、彼は説明を続けた。「ただ少しの忍耐と健全な想像力の助けを得れば…それは、なんとか可能でした。彼女は私の旧友だったんです。我々はふたりは好奇心でお互いを助けおうとして、まあ、そういうわけですね。 二度と試してみる気はし
ませんが・・・。」彼は物言いたげに肩をすくめた。

かれの新しい知人は、まるで子供が妖精物語を聞かされたかのように目を丸くして、彼をみつめた。

彼らは強盗の目を盗んで短い会話を続けた。もはや重要な話題に触れることはなかったが、それでもドリアンはヨーゼフの質問には誠実に答えた。

「私は彼に話してみることにする。」ヨーゼフはついに宣言した。「次に会うときに、そうしてみることにしよう。」

「彼自身の意志に任せなさい。」ドリアンは助言した。「ふたりだけのときに話をするほうが、彼にとっては話しやすいかもしれませんね。」

「ああ。あなたと会ったことを持ち出してもいいものかな?」

なぜって、私の親友のうち何人かは同性愛者なのだ、息子よ!」ドリアンは、ヨーゼフのアクセントを真似ながら言ってみた。クラウスの真似の練習ならたっぷりしたことがあったから。これは十分に簡単だった。

ヨセフは笑った。「そういうふうに言ってみよう。なるべく穏やかに、そういふうに。実のところ、穏やかに話をするというのはあまり得意ではないのだ。息子もな。だが息子のためには、やってみるべきだろう。さあ、息子がどう答えるか・・・。私は...あなたは、美術品のためにいらっしゃったということだったね?あなたは、美術商にご勤務なのかな?」ドリアンの冗談で彼を少し気を悪くしたのかもしれなかった。

「ええと・・・というより私は...芸術を評価するのが仕事なのです。」嘘というわけではなかった。彼は芸術を評価していた。絵画や彫像や宝石やその他あらゆるものが彼の好みに合うかどうか、エロイカの要求する品質に達している水準かどうかを確認しているのだった。盗むかどうか決めるために、ほかにどんな基準があるだろう?

強盗の女が彼らの方を見つめたため、彼らは一時停止した。彼女が銀行の外に気を取られたので、ヨーゼフは話を再開した。「私はいくつかの絵画を所有している。少し前にそれらの評価を依頼したのだが、そのとき私は不在だったのだ。そして、評価の結果も聞いていない。あなたがお勤めの会社は、私の所蔵品の評価をあなたに依頼することを許可するだろうか?」

おやおや、今度は私の本職につながってきたのかい?ヨーゼフの友好的な態度にもかかわらず、正直なところ銀行を出た後でも交際を継続したがるとは予想していなかった。彼はこの会話が、相手にとっては単に予期せざる情報源に過ぎないだろうと考えていたのだが、それはどうやらちがったようだった。彼は話に乗ってみることにした。身分証明なら、ボーナムの友人が簡単に偽造してくれる。どちらにしろ、一時的なものだ。それに、彼は芸術のためならの時間を惜しまなかった。「問題ないでしょう!それは楽しそうなご依頼ですね!」彼はヨーゼフが魅力的な美術品を何も持っていないことすら期待した。もし持っていたら・・・。

「息子と会って、話してみてくれないだろうか?」

ヨーゼフの希望に満ちた口調に、彼は笑みを作った。「なぜ、ヨーゼフ!」彼は無邪気に言ってみた。「それじゃあまるでお見合いみたいですよ。あなたは私が喜んで・・・」夢中になると。「... ...そこに愛が?」

ヨセフは急いで頭を振った。頬が赤らんでいた。「ちがうちがう!ちょっと考えてみただけだ。ええと・・・、彼はたぶんとても孤独なので...せめて彼が誰かに話すことができていれば...。」彼は力なく肩をすくめた。

「では、何が起こるか見てみましょう。」ドリアンはなめらかに言い添えた。もしその男の子がかわいい子だっただったら…、こんなとき、彼は常にZやGや、またはK、時にはジョーンズなどを思い浮かべた。そしたら、みんなが幸せになれるんじゃないかな。

「あなたは恋をしていらっしゃるのかな?」

「ええ、その通りです。実のところ、あなたのお国の男性に。仕事の件は別として、今ここにいる理由のひとつは彼のためです。」

「愛・・・そう...私は再び、あなたを侮辱してしまうかもしれない。私は、同性愛者というのは誰かを愛することなどないのだと・・・。」

ああ、ドリアンは以前にもその愚かな迷信を聞いたことがあった。「我々には愛などない?我々が求めるのはセックスだけだということ?ああ、それなら私は確信をこめてお答えできますが、ヨセフ、それは真実ではありません。誰もが誰かを愛するように、私達もまた誰かを愛するのです。」

「それは素晴らしい!私は...息子のことをを心配しておったのだ。息子には・・・幸せになって欲しい・・・。」

ドリアンは理解をこめてうなずいた。「誰もが幸せを追求すべきです。それが世界をよりよき場所とするのですから。」

「私はあれの母を心から愛していた。彼女から離れることになったときは...、辛かった。あなたは、その、ええと、・・・パートナーがドイツにいて、お辛くはないのかな?」

ドリアンの笑顔が哀しげに歪んだ​​。「我々はパートナーではないんです。私は...彼は彼を愛しています。そう、狂ったように深く、心の底から。私の心はすべて彼に捧げられていて、私は彼以外の何も望んでいない・・・、彼を私のものにするためなら。彼は背が高くてハンサムです。美しい長い髪と、私がこれまで見た中で最も素敵な濃い緑の目を持っています。そして彼は...私が今まで会ったなかで最高の男性なんです。問題は...そうですね、こまごまお話してもあなたには退屈なだけでしょうから。ヨーゼフ、彼は・・・、彼はこう言ったんです。私を愛していないと。そして今後も決して 決して・・・。」なんて奇妙なことだろう、と彼は感じた。でも正直なところ、彼はある種の心地よさも感じていた。全くの見ず知らずの他人に、彼の人生で最大の悲しみを打ち明けることになるなんて。

「それはお気の毒に。」ヨーゼフは言った。言葉には誠実な響きがあった。

ドリアンは肩をすくめた。「私は、私が彼にふさわしいということを示そうとしたのですが・・・、ああ、彼は全く頑固な男で、私は恐れています...時には絶望と言ってもいい...。」仲間たち向かっては、これほど素直に語ったことはなかった。ましてやクラウスには。

ヨーゼフはかすかに眉をしかめて彼を見つめた。おそらくは、可能な解決策を検討しているらしき表情、そういうふうに問題を解決していこうとする指向のドイツ人を、ドリアンはもう一人知っていた...

BANG!BANG!

二度の銃声。それはほとんど間を空けずに発射されたために、まるで単独の銃声のように響いた。粉々に散ったガラス、つんざく悲鳴。ドリアンは、純粋な本能のままにヨーゼフをひきずり、壁際のベンチの陰、比較的安全そうな場所に跳びこんだ。さらなる悲鳴が響いた。女性の悲鳴はもちろんだったが、それより低い声ももちろん混じっていた。ドリアンとヨーゼフは一緒になってベンチをひっくり返し、ばかばかしいほど哀れな避難場所を確保しようと試みた。砕けたガラスがさらに降り注いだ。ドリアンは情況確認のためと、できればどこかに突破口が無いかと考え、頭をそっとのぞかせた。そして彼は卒倒しそうになった。いや、もちろんそうはしなかったが。

「もう大丈夫です。」彼はヨセフに言った。「騎兵が到着しました。というか、戦車隊が。」彼は立ちあがり、友人が立ち上がるのを助けるために手を伸ばした。

銀行強盗を試みようとした男女は、どちらも血まみれの手を押さえながら、倒れていた。女は叫び声を上げ、男は放心状態だった。その前で無表情のままに彼らを見下ろしているのは、立ち上がったアレス、戦いの神、海のように力強く、その美貌に恐怖を秘めたる者 - またの名を、クラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐、もしくはドリアンが心の奥底で呼ぶとおり、「私の人」。

私の英雄よ!彼は幸せに包まれた。犯罪者が確実に取り押さえられるまで少佐の注意を逸らしたくなかったので、ドリアンはおとなしく待つことにした。ほどなく警官隊が内部に殺到し、クラウスは彼が撃ち抜いた標的から離れた。彼の鋭い視線があちこちに飛び、やがてドリアンを発見するや否や、そしてその目は大きく見開かれ、口を大きく開いて驚愕の表情を作った。

しかし、最愛の人 - きみは私を救うために来たんじゃないのかい?きみは私のために来たんだよ!そうじゃなきゃどうして、単なる銀行強盗事件なんかにかかわってくるんだい?なのに、なぜそんなに驚いた顔をしているのさ?

そしてクラウスは彼に向かってずかずかと進んできた。鋭い目がドリアンと何かとの間を行ったり来たり行ったり行ったり行ったり...え?ヨーゼフ?

本当なんだよ、愛するきみ。わたしがヨーゼフと浮気中だったたなんて、そんな心配は全く無いんだよ。私がきみのものだという考えはすごく魅力的なんだけど、君も見ての通り、ヨーゼフと私はたった今、この銀行で会ったばかりなんだよ!そのとおりなんだってば!だからどうしてきみったら…

「俺の父親から離れろ。この堕落した変態の大馬鹿者の泥棒野郎め!よくも父に近づいたな!貴様は、貴様ときたら・・・」

ドリアンはたじろいだ。クラウスの目に現れた、ほとんど気が狂ったような激情におびえた。「きみの・・・きみの・・・きみの・・・お父上?! なんてこと!私...私は・・・」クラウスはドリアンのシャツのフリルをわしづかみにして、彼を引き寄せた。 相手が自分をひどく傷つけそうなほどに怒り狂っているのに気づいたとき、とうとうドリアンは叫んでいた。「知らなかったよ!知らなかったんだよ、誓うよ!少佐、私は・・・」

「クラウス・ハインツ!なにをやっとるか!すぐにやめなさい!なにをしとるんだ!」

少佐はドリアンのシャツが突然燃え上がりでもしたかのように、ぱっと手を離した。彼はドリアンの肩越しにヨーゼフを見つめ、それから一歩下がった。ドリアンは、二人の男性を慌てて見比べた。なぜもっと早く気が付かなかったのだろう。こうやって並んで立つと、見間違えようもなかった。二人とも同じように姿勢がよく、同じように長身で、同じ顎と同じ鼻をしていた。ヨセフの髪は短く灰色だったが、明らかに若いころには息子と同じ色だっただろう。ヨーゼフの目は緑というよりは灰色だったが - "息子は妻そっくりで、やつの目は妻の目そのものだった。そのものなんだ。" - 彼の目は息子のと同じ形をしていた。大きな目に小さめの瞳、そして鋭い目つき、それが彼ら父子に共通する個性だった。

「父上!この男があなたに何か?許さん・・・!」

「クラウス・ハインツ!みっともない振る舞いはやめんか!口をつつしめ!」

クラウスの歯を鳴らし瞬きをした。彼はもはやアルファベッツチームの力強いリーダーであり世界中の敵に恐れられたNATOのエージェントではなく、自分が何をしでかしたかわかっていないが、すぐにでもそれを謝罪せねばならない、聞き分けの良い息子となっていた。

ヨーゼフは振り返った。「ドリアン、息子の無分別な言動をを深くお詫び申し上げます。」

クラウスは喉の奥を鳴らし、目を大きく見開いて彼ら双方を見つめた。

「ヨーゼフ、謝罪の必要はありません。」ドリアンは輝くような笑顔をつくり、十分に状況を楽しみつつ答えた。「そう…そういえばきちんとした自己紹介をしておりませんでしたね。私はドリアン・レッド・グローリア卿、グローリア伯爵です。」

「伯爵?それは非常に興味深い。ヨーゼフ・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハが御前にてご挨拶申し上げます。さてドリアン、あなたの胃が子猫のようにぐるぐる鳴いているのが聞こえていなかったとしたら、私は耳鼻科に行かねばならんでしょうな。通りを下ったすぐのところに、ささやかな食事の場の心当たりがあります。ご同行させていただけるかな?」

「もちろんです。それはたいへん・・・」

「父上!この変態がいったい何をあなたに・・・、」

「口を慎まんか、クラウス・ハインツ!私に恥をかかせるもんではない!さあ、おまえは私たちといっしょに来なさい。静かで礼儀正しい態度を崩さんようにな。」

「・・・はい、父上。」

あきらかに驚愕で口も利けなくなっている息子を無視し、ヨセフは手を伸ばしてドリアンの両肩に手を置いた。「あなたは素晴らしかった、ドリアン。さあ、おいでいただきたい。我々には議論すべき、より深刻な課題をあると思うのでな。」


ドリアンは楽しそうに笑った。「そうですね。真面目なお話ができると思いますよ、ヨーゼフ。ではお連れいただこうかな。」


The End


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So he used his last marks to have a cab deliver his bags to the Rheinhotel Dreesen, where they
stayed. →ドイツとかスウェーデンではそんなことができるの?持ち逃げされたりしないの?→本人に訊いた。できるって!

A rogues gallery (or rogues' gallery) is a police collection of pictures or photographs of criminals and suspects kept for identification purposes. The term is also used figuratively by extension for any group of shady characters or the line-up of 'mugshot' photographs that might be displayed in the halls of a dormitory or workplace.

Sparkasse銀行 http://www.sparkasse.de/

Stoß mich fester, du verdammte Schwuchtel! / "Schieb ihn mir rein, du Idiot! 独→英で翻訳かけてみよー!うふ。やっぱこの作者はクラウス受け。

The whole nine yards: The phrase the whole nine yards means completely, the whole thing, everything,

2011/08/26

【海外フィク翻訳】Peaches and Cream - by Filigree


Peaches and Cream
by Filigree
日本語訳はこちら


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取り急ぎ用件のみ



23巻の72ページの2コマ目をアップで見たい。
 
 

2011/08/24

海外フィクにおける少佐の人間像



原作と海外フィクワールドにはいろいろと設定に差異があります。伯爵が薔薇の香りの香水をつけているとか、部長が真剣に陰険な上司で少佐の昇進の邪魔をしているとかパワハラでGと関係を持っているとか、いろいろ「ん?」な点はあるのですが、押さえておかなければらならない2点はやはり、(1)「エロイカはNATOのcontractor(外部契約者)として仕事をすることがある」および(2)「少佐の人間像」、これに尽きるでしょう。特に(2)。

これらはすべて、コミックスで言えば1~3巻あたりまでをスキャンレーション(後述)で読んでハートをぶち抜かれた海外読者が、あっというまに花開かせた妄想の産物だと思われます。妖しく咲き誇る誤解のあだ花ですね。

原作をちゃんと読んでいれば、「エロイカがNATOの外部契約者として数々の任務に参加」というのが無いのは良く判るはずです。伯爵がNATOに協力したのは一回きり。それは、自分の目的に役に立つからこその協力でした。伯爵という自由な個性が、組織に雇われることをうべなえるとは思えない。ただこれは、ファンフィクの中で伯爵と少佐をからませるのに非常に便利な設定なので、多用されているうちに設定として固定されたのは良く判ります。おまけに伯爵は報酬として少佐のキスだの少佐一日着せ替え権だの、好き放題要求していて、これはこれで楽しい。しかし問題は(2)です。

少佐。「少佐の人間像」。

日本においては、再開前の「エロイカより愛を込めて」のファンの人気投票では必ずいつもぶっちぎりで少佐でした。伯爵は、場合によっては2位ですらなかったこともあるのです。クラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐は、日本の少女漫画に始めて登場した、リアリティに満ちた硬派な、かつ美しくしかも可愛げのある男性として、日本中の少女たち(←含ワタクシ)のハートをぶっすり射抜いたのでした。美しい男性からひたすら愛情を寄せられて、あくまでそれを拒否するというのもツボだったしな~~~。

というわけで、大昔のファン活動とか同人誌とかって、ひたすら少佐(&ドイツ事情)メインだったはずです。伯爵はなんというか、刺身のツマ。

話は少し寄り道しますが、最近若い人と話をしてて思ったのは、若い人の間では、少佐と伯爵の人気がそれほど偏ってないんですよねー。二人でセットで好きだったり、むしろ伯爵のほうが好きというひとも結構いる。これは私のような年代のものにとってはオドロキ!です。昔のファンだと「少佐がいれば伯爵は不要」というひともたくさんいました。なにしろ「魔弾の射手」「Z」という世界がありますからな。

思うに、20-30年前は俺様系の強引な男性がアイロニカルな意味でなしに魅力的だったのでしょうけれど、もうそれは終わったんでしょうね。今の時代、少佐のようなタイプは正面から評価するのではなく、その極端さを半笑いで愛でるという方向に変わってきた。反対に、伯爵のように最先端で一歩横にずれた余裕のある個性のほうが魅力的に捕らえられるようになってきたんだとおもいます。日本人女性の男性に対する評価軸の変化があったのでしょう。



閑話休題。海外フィクにおける「少佐の人間像」に戻ります。これは知らない人はビックリかもしれないです。

「エロイカより愛をこめて」の英語公式版が出たのは2004年。一方、英語のファンフィクションは1980年代から延々と書き継がれています。公式版が出る以前から、非日本人がこの漫画を知っていたのは、大きな声ではいえない事項ながら、スキャンレーションの功労です。スキャンレーションについては別の投稿で書きました。そこでもご紹介したとおり、この件に関しては「親愛なるエロイカへ」のかぼりんさんによる、”初期スキャンレーションのやや偏った訳が海外ファンダムにおける少佐像を決定したのではないか”という優れた分析があります。その記事この記事をお読みいただければ、私の書きたいことは正直ほとんど終わりです。


さらに付け加えるとすれば、健康な成人男性としてのプライベートがあまりにも見えないこと、伯爵に挑発されたときの数え切れない過敏な反応(戦車の中、ローマ風呂、ベルト、再会のキスx2・・・)、極度に肌を見せない性癖等々から、熱に浮かされた読者のみなさんが妄想の翼を自由に羽ばたかせた軌跡がうかがえます。

というわけで、英語ファンフィクの少佐に関し、私たちから見てえええっ!?な設定を箇条書きにすると:

- 男にも女にも童貞
- またはED
- もしくは隠れホモ
- おまけに受けだったり
- 幼児期に性的虐待の経験が
- パパのことを真剣に怖がっている

などなど、です。

衝撃?

Slash版Wikipediaとも言えるFANLOREでは、少佐は上記に加えてasexualとまで言われてます。asexualて!無性???天使みたいな!?

性が無いほどに見えるストイックで無垢な軍人が、海千山千な手練れの男色家の退廃貴族に、数年越しの一途な純愛を捧げられてついに陥落するという妄想が、世界中の一部の乙女の紅涙を振り絞ったのね・・・。ちがうけど。でも書いてて私も萌えてきたw

スラッシュは日本のやおいとちがって、性役割が固定されていない場合が多いのですが、エロイカのファンフィクでは少佐がエライ目に合わされているストーリーがけっこうあります。性的な虐待をうけて、その挙句に死んだり、廃人になったり。または子供のころになんかされたてたり。明らかに伯爵よりひどい目に合ってます。(そういえば伯爵がひどい目に合ってても純粋に気の毒なだけで別にに萌えん…) 私自身は痛いのがちょっと鬼門なので積極的に読みにはいかないのですが、準備無く読んでるうちにこういうのに出くわすことは結構ある。私の翻訳でも近いうちに出るはずです。

少佐は攻めなのか受けなのかは海外の皆さんも気になるところらしく関連スレッドを何箇所か見す。若い世代だと最初から話の後ろのほうまで読んでいるので少佐攻め主流かと思いきや、意見が分かれてますなあ・・・



少佐受けフィクションで訳したいのが二つあります。大変狂おしく受けを求める短編と、今の少佐が読んだら「貴様は誰だ!」と叫びそうな中篇。中篇のあらすじ:東欧の小国の共産党政権を崩壊させるために、髪を切り銀髪に染めて、残虐な独裁者の愛人として大統領府に潜入している少佐。彼には生きてドイツに戻る意思が無く、異国で任務に殉ずる覚悟でいる。彼へ脱出の指令を伝えに行くのが、NATOから依頼を受けたエロイカなのであった・・・。ふたりはまだプラトニックで、少佐は「こんな汚い仕事をしている俺にはキスひとつしてくれない…」と悩む・・・。(なぜか小声で説明)

いかがでしょう?猛烈に読みたくなりませんか?いろんな意味で。

私は2~3巻あたりの絵で脳内再現して、たいへん楽しみました。残念ながらこの作者とは連絡が取れないので、ここで翻訳を発表できる予定はありません。いひひひひ。

というわけで、海外フィクにおいては少佐の人間像がちょっと日本人の我々の常識とはかけ離れていることがありますので、みなさんお読みになる際には心してくださいね! というお話でした。

以上(全然まとまってないが終わる)
  
  

2011/08/23

やっと38巻と姫金が手元に届いたーーー

      
ふたりのカラー表紙が素敵~ (雑誌表紙ではなくて、漫画表紙のほう)

伯爵ピンクのシャツに赤系のネクタイか。少佐よりややほっそりしてますね。なんかフツーの人になってきたなあ。もう若いころみたいに赤のノースリーブとかはもう着ないんだろうなあ。ちと寂しい。こないだの翻訳に「You'll try to make me wear tamer clothes(きみは私にもっとおとなしい服を着せようとする)」とあり、もうあんまり露出の多い服は着させてもらえないのでしょうか。(妄想)


ふたりとも、ジャケットにフラップがついてないのよね。そういうデザインなのかしら。何の話をしてるんでしょうね。次の休暇の旅行先の打ち合わせ?地中海でバカンス派の伯爵と、ドイツ山岳でトレッキング派の少佐とか。


「山は健康的過ぎるよ。私はもうすこし健康的じゃないこともしたいんだ。」
「食っちゃ寝は太る。」
「ただ寝転がってるわけじゃないんだよ!君も私もすごい運動量になるじゃないか!」
「・・・(赤面)」


などなど。


本編でふたりのタンデムが見られるとは(感涙)。記念にタンデムのやつを翻訳しようかしら。タンデムで怪我してて花火のやつ。  



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いま自分で読み返して思ったのですが、「着させてもらえない」って方言臭ありますか?特に関東の方のご意見を伺いたい。分析すると「着る(動詞)」+「させる(使役の助動詞)」+「て(接続助詞)」+「もらう(補助動詞)」+「ない(打消の助動詞)」で、文法的には間違いはないのだが、なんとなくひっかかる。



2011/08/22

【海外フィク翻訳】Or For Worse - by Kadorienne

 
  
Or For Worse 
by Kadorienne
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大人の小品です。

2011/08/21

来週末はなんとかがんばろう

週末は雑用でまったく手がつけられませんでした。8/18のエントリはKadorinneさんの、8/19のはAnne-Liさんの。どっちも翻訳予定の上のほうに入ってます。ああ、あいつらを翻訳できる日が待ち遠しい・・・(オレグ風味)

2011/08/19

声に出して笑ってしもうた



伯爵がよこした誕生日プレゼントが、ルーブルからの盗品だと知った少佐。

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"I'll elope you straight to a prison cell! Get up! What the fuck do you mean, giving me stolenproperty? Out shopping - my arse! You went to the Louvre, you broke in, you stole dozens of paintings and you're trying to force one on me!"

Finally the brainless, offputting sycophant rose. "Firstly, about your arse, I just want to say--"
"No! No, no, no, no!" Klaus made aborting gestures. "Forget about my arse! You--"

The blue eyes widened. "How could I possibly forget about your arse? It's right there! Every time you turn away, I can't help but--"

"No! I said no! No talking about my arse, no looking at my arse, no thinking about my arse and under no conditions touching my arse! Understood? And you're avoiding the subject!"


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「おまえを刑務所へそのままぶちこんでやる!さあ、立て!いったいどういう了見で盗品なんぞよこしたんだ?このくそったれが!(my arse! ) おまえはルーブルへ行って、そこへ忍び込んで、そこから何ダースもの絵画を盗み出したんだ!そのうちのひとつを俺の屋敷に持ってきやがったというわけだな!」

とうとうその、考えなしの役立たずのおべっか使いは口を開いた。「ええと、まずきみの尻(your arse)の話から始めようか…」

「ちがうちがうちがうちがうちがう!」少佐は必死で伯爵の話をさえぎった。「俺の尻のことはどうでもいいんだ!問題はおまえが…」

ブルーの瞳が大きく見開かれた。「なぜ?私にとってはどうでもいいことじゃないよ、少佐?だってまさにそこにあるじゃないか。それにいつもきみが身を翻して私から去っていくときに、私としてはついつい…」

「やめろ!俺はやめろと言ったんだ!俺の尻の話はするな!俺の尻を見るな!俺の尻のことを考えるな!それからいかなる状況下においても俺の尻に触ることは禁じる!わかったな?話を逸らすのはここまでだ!」

  
  

2011/08/18

全部訳せる日が楽しみだのう




Klaus followed obediently, and in the Earl's room, sank tiredly into a chair. He had reached only one conclusion during the day's hike: that there was no point in lying about anything anymore. So he would not.

Dorian had the menu out. "What would you like?"

"Something with fried potatoes."

Dorian lifted an eyebrow. "Very well." He made the call, then sat across from Klaus, studying him soberly. "Are you angry at me, because of last night?"

Klaus felt his face burn. "I think you are the one who has cause to be angry." He had felt a stab of shame when he had noticed the sprinkling of small bruises on Dorian's skin that morning.

"Are you always like that?" Dorian inquired.

Klaus scowled at him. "What do you think, you idiot?" he demanded.

Dorian's eyes widened. "Of course. How foolish of me. That was your first time, wasn't it? And not just your first with a man, either."

Klaus looked away.

"Klaus. I'm honored." He tilted his head to one side. "I'll allow you to sodomize me tonight, if you can control yourself sufficiently not to hurt me," Dorian said archly.

Klaus' face burned. "I'm not going to hurt you tonight," he said in a voice so low Dorian could scarcely hear it. Dorian did not quite dare to close the distance between them; he could tell there was something more Klaus needed to say first. The tense silence lengthened. At last Klaus broke it, still scarcely able to speak.

"I apologize," Klaus managed.

Dorian took a breath. "Darling," was all he said before moving to take Klaus in his arms.
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クラウスはおとなしく従った。彼は伯爵の部屋に入り、疲れ切ったように椅子に沈み込んだ。一日中歩き回った挙句の、唯一の結論はこれだった。: これ以上嘘をつく意味は全くない。あらゆることに。だから彼はそうしなかった。

伯爵がメニューを示した。「何をとる?」

「揚げたイモがが付いとるなら、なんでもいい。」

ドリアンは片眉を揚げた。「素晴らしいね。」伯爵は電話をかけ、クラウスの向かいに座り、落ち着いて彼を見つめた。「怒ってるんだね?昨夜のことで。」

クラウスは頬が赤らむのを感じた。 「怒るべきなのはお前のほうだ。」

その朝、ドリアンの肌のあちこちに散った青痣を見て、彼は鋭い羞恥心を覚えたのだった。

「きみはいつもああなのかい?」ドリアンは尋ねた。

「おまえはどう思うんだ、馬鹿者。」クラウスは睨み付け、相手に言わせようとした。

ドリアンは視線を上げた。「ああ、その通り。私はなんて愚かなんだろうね。きみは初めてだった。ちがうかい?男とは初めて、という意味ですらなくて。」

クラウスは目を逸らした。

「クラウス。私はそれを名誉に思う。」それから首をかたむけて告げた。「今夜きみに、きみの楔を私に穿つことを許すよ。私を傷つけないようにちゃんと自制できるならね。」からかうように、そう言った。

クラウスは耳まで赤くなった。「今夜は、あんなふうにはしない。」彼はドリアンがやっと聞こえるぐらいの低い声で言った。さらに一言、クラウスには言うべき言葉があるはずだったが、ドリアンは敢えてクラウスにそれを強いることを避けた。息もはばかるような沈黙が続いた。とうとう口を開いたのはクラウスのほうだった。彼はやはり、かろうじて言葉を搾り出すようにした。

「すまなかった。」クラウスは謝罪の言葉を探り当てた。

ドリアンは息を吐いた。「ダーリン、」それがクラウスを抱きしめる前に彼の唇からこぼれた、唯一の言葉だった。





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be no point = meaningless, doesn't make sense
a stab of = a sudden sharp feeling



2011/08/17

あまりの当たりっぷりに愕然(サドマゾ診断)

   

サドマゾ診断  http://sade-maso.com/

  

伯爵さんの診断結果 (ID:817489)

カリスマ外道なドS

教祖的存在かもしません。
サド度
84 %
マゾ度
16 %
変態度
61 %
■性格
類まれなセンスと感覚を持っており、自分の世界観を持っています。友好的であるため、第一印象はたいてい良い人 です。相手を従わせることに快感を覚えています。まあチャッカリはしてるので、損得勘定で動く場合も多くなります。相手の気持ちを察する気があまりなく、 細かいことはいいんだよと思ってます。しかし伯爵さんはどこか素直なところがあり、憎めない人でもあります。楽をしたがるところがあり、結果ばかりを求め る傾向にあります。
■仕事
抜群の感覚をもっており、大舞台やテンションが上がる環境でさらに力を発揮します。周りの人とそれなりに楽 しくやります。稼げるかどうかだけで判断する資本主義的な人間なのです。気が利くところがあるので、割と重宝されます。イケイケ(笑)でノリと感覚だけで 生き抜いています。報酬があるときと無いときの態度の差が隠していても顔に出ています。しかし一向に空気が読めない人でもあります。一度決めたら周りが驚 くほどの力を発揮し、どうなるかは本人にも分かりません。
■恋愛 (マゾ度 53%UP)
伯爵さんは自分の感覚を理解できる女性男性じゃないと対等に付き合えないと感じており、本気の相手選びには苦労 します。金の切れ目が縁の切れ目になりやすく、ストーカーの原因ともなります。根は優しいので、落ち着いた人間関係を構築していきます。釣った魚に餌はや らないタイプで、ケチなところがあります。相手の女性男性のことを考えないその行動でたびたび相手を傷つけます。そして下心がむき出しで失敗することも多いで しょう。

  

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少佐さんの診断結果 (ID:817499)

純粋なM

まっしぐらです。
サド度
40 %
マゾ度
60 %
変態度
20 %
■性格
色々と考慮を重ねて、目標を達成していきます。とても純粋な心を持ち合わせており、場合によっては周りの人を巻 き込みます。あまり他人に依存していないので一人でいる時間が多いでしょう。あまりウダウダ悩み続けるのは苦手で基本は一晩寝たら忘れるタイプです。少佐 さんは先に考えありきで行動を起こす人です。比較的緩やかな感覚を持ち合わせていることから、多少の問題は気にしません。
■仕事
他の人のことあまり目に入っておらず、自分と他人の間に壁を作ります。少佐さんは相手が何を求めているかを 察してしまうため、ついつい気を効かせてしまうのです。頼まれると断りにくい性格をしており、苦労しがちです。うまいこと相手の機嫌をとって問題を切り抜 けていきます。エネルギーのあるたくましい人です。
■恋愛
少佐さんは信頼しあえる関係を望み、基本的には相手を疑うことを知らないピュアな人です。特定の相手がいる 時期は相手との二人だけの世界に依存しすぎる傾向があります。なんだかんだ一晩寝れば忘れてしまうほうが多いでしょう。また、少佐さんは根は結構素直な性分で、押しに弱いところがあります。相手のことをよく気がつくため、好感を持たれることも多いほうです。
  

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相性診断結果

34点 出来れば無視したい関係

  

純粋なM
少佐さん
恋愛を前にした時のただひとつの勇気は逃げることである。
カリスマ外道なドS
伯爵さん
安定は恋を殺し、不安は恋をかきたてる。
■相性
価値観や求めるモノが全く理解できない相手です。鈍感なのですが当然のことながらどちらもそのことに気がつ いておらず、全くお互いの役に立ちません。知人関係以上になることはなかなか難しいでしょう。流行や面白いモノに対する興味に互いに嫌悪感を抱きます。伯 爵さんの積極性がまた対立を呼びます。憎しみ合うことの多い難のある相性です。トラブルも多くなります。
  
  

お互い無視できないから困ってんだよ!

(誰の叫びだ誰の)


  

  

  


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BasilLeavesさんの診断結果

優秀な外道S

台無しにすることが目的です。
サド度
68 %
マゾ度
32 %
変態度
71 %
■性格
頭脳明晰で抜群の集中力を持っており、多方面で実力を発揮します。あまり他人に依存していないので一人でいる時 間が多いでしょう。普段は意識はしてないのですが、気がついたら損得勘定でしか動いていません。自分の様々な欲望や願望に対して素直であることが短所でも 長所でもあります。繊細で細部までにこだわりを見せますが、そのこだわりは他人には理解されがたいでしょう。あなたは若干他人と違う思考を持ち合わせてい ます。
■仕事
論理的に物事を考えるのは得意で、冷静に問題を解決していきます。他の人のことなど気にもせずに、自分の道 を走ります。稼げるかどうかで判断する資本主義的な人間なのです。目的のためなら手段を選ばないところがあり、やりたい放題です。目的のためなら手段を選 ばないところがあり、常に虎視眈々としています。BasilLeavesさんは仕事と趣味はきっちりと分けて考えたい人です。
■恋愛 (マゾ度 43%UP)
BasilLeavesさんの社交性の無さと関係ない相手である必要があります。金の切れ目が縁の切れ目になりやすく、トラ ブルの原因ともなります。恋愛に関して欲しいと思ったもの対しては、欲望のままに行動が止まりません。常に自由な恋愛を望み、様々な場所での発展があるか もしれません。たいていの場合、相手の適当な行動が許せません。細かいことが気になる性分なので、無神経な行動をされるとショックを受けてしまいます。
 
 
(ははは、色々当たってやがる。ははははははは(乾いた笑い))
 
 
 

2011/08/16

【海外フィク翻訳】Anger Not the Old Lion - by Anne-Li




Anger Not the Old Lion
by Anne-Li




概要:ラスベガスで開催された国際軍事会議で、軍におけるの同性愛をテーマに した討議会が開催された。クラウスとドリアンの双方が出席した。

作者から:Kadorienneのための作品です。90年代後半、もしくは2000年代初期の 設定です。(物語のの最後も参照のこと。)

訳者から:英語のエロイカファンフィクでは、伯爵はcontractor(外部契約者)と して少佐の任務に同行し、数々の危機を共にかいくぐったことになっていること があります。それを踏まえてお読みください。(物語のの最後も参照のこと。)



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ラスベガス。国際軍事会議が開催されるには意外な場所だった。世界中で片眉、 もしくは両眉をつりあげた関係者がいたかもしれなかった。誰がそんなアイデア を思いついたのだろうか。その罪深い街で時間が許す限りいったい何ができるか 考え、即座に計画を立てて喜ぶ者もいた。もしかしたらなんとかやりくりして、 一日か二日余計に滞在する必要があるかもしれない。その他の者たちは - 言う までもないが - そのような会議は時間の無駄以外の何者でもないと考え、その時間を実務にまわしたほうがいいと考えた。しかしながら結局のところ、後者のほとんどですら、とにかく参加することにした。そういったものに出席するのは、それがどんなに腹立たしかろうがとにかく仕事の一部だった。世界各地からさまざまな軍隊の部隊からの出席があった。海軍、防空、化学部隊、エンジニ ア、砲兵部隊、歩兵部隊などなど。


参加者の一人にリチャード・ラインワースがいた。友人たちから「ディッキー」 と呼ばれるその男は、多くのパネルリストのうちの一人として発言の依頼を受け ていた。彼は18歳の誕生日の朝に入隊した現在34歳の男で、アメリカ陸軍は彼の 人生そのものだった。彼はトップに立つことを夢見ていた。幾度と無く受けてき た昇進の機会は、それぞれが小さな目標ではあったが、その最終的な目標へ近づ きつつあるしるしに過ぎなかった。会議でのパネリストとして指名されたとき、 それは土壇場になって本来のパネリストの代替として指名されたのではあったが、同期に抜け駆けの機会をまたしても順調に捕らえたなと、ラインワースは考 えたのだった。 たとえ彼自身は会議の主題を不愉快に思っていたとしても。


「軍隊に同性愛者の存在を許可すれば、士気に悪影響を及ぼすだろう。」と、彼ははっきりと述べた。理論的には、彼は同性愛者を迫害しているわけではなかっ た。彼らは結局のところ、一般人の一部であり、それゆえに、彼と彼の兄弟たち の腕の中で保護されるべきものの一部でもあった。少なくともこちらがわと距離 を保ってくれている限りは、彼らは軍役には何の関係も無いなずだ。このアイデ アは極めて愚かだ。変態で兵団を仕立て方らといって、9/11のようなテロリスト の攻撃に対抗するのになんの役に立つ?


彼はしかし、そうは口に出せなかった。その代わりに、「他の男性兵士が自意識過剰になってしまうだろう。」とは続けた。自分の合理的な議論を祝いながら。 彼は外交の価値を知っていた。シャワールームの彼に妙な目で見ているかもしれ ない変態どものことを考えると緊張でぞっとするにもかかわらず、彼は大声でそう言ってはならないことを知っていた。


「米軍隊における同性愛者許容の利点と欠点」という会議は、国際軍事会議が挙行されたストーンホテルの小会議室、ルビールームで開催されていた。このよう なテーマに興味がある者はおそらくそれほど多くなかったにもかかわらず、会議室は満席で、空席は一つか二つしかなかった。討論会の代表者は小さなステージ 上で馬蹄形のテーブルの周りに座っており、聴衆はステージがよく見えるよう に、映画館のように傾斜した列に着席していた。 ラインワースは参加者を見て、民間人がいくらか混じっていたものの、参加者のほとんどが誇らしげに自分の連隊また部隊の軍服を身に着けていることを見て取った。無益なことだとラインワースは思った。これ は純粋に軍事的問題なのだ。もちろん、彼らは真の民間人ではないかもしれな かった。例えば諜報部門においては、軍服はそれほど必要ではない。


六人のパネリストが着席した後も、七番目の席は空いたままだった。誰かが遅刻 しているか、最後の最後で欠席することにしたのだろう。ラインワースがラインハルト中佐の代替として指名されたさらに後に。討論はスティルウィック准将が 司会をすることになっていた。その他のパネリストでラインワースが知っている のは、カーター中佐だけだった。正直なところ、彼は女性軍人についても歓迎し ているわけではなかったが、少なくとも女性軍人のシャワールームは分かれてい たし、なにより彼女らは目の保養にもなるのだった。カーター中佐は素晴らしく 凹凸のある体つきで、その華奢な手がシグ・ザウエルP228の引き金を引くところ はどうにも想像しにくかった。彼女は賛成の側にいた。もしかすると彼女"fag hags"(ゲイと親しい関係を持ちたがる女性)なのか?と彼は思った。奇妙なことだ。女は同性愛者を競争相手とは感じないのか?彼女が密かにレズビアンでもない限り。そうだとしたら、もちろんそれならもっとわかりやすい。


「同性愛者たちは私達の国に同じくらいの愛国心を持っているのです。 - 」


「もちろんです。」"彼はそれをさらに議論する意味がないと考え、急いで言っ た。「私が言っているのは、同性愛者の兵士がいるというのは、戦場において現 実的ではないということです。彼らにはその心構えがない…。」


「ずいぶんとステレオタイプなご意見ですね!」彼女は非常に無作法な口調で口 をはさんだ。「どこにもそんな根拠は・・・」


彼は彼女を黙らせるために声を大きくした。 「それは過酷な状況に対処するた めの心構えの問題です!申し上げておきますが・・・」


「失礼するが・・・」


その言葉は低い声だったが、ラインワースの発言をやすやすとさえぎった。そこ にはアメリカではないどこかの響きがあり、最初の単語に強調を置く奇妙な調子 が、短いセンテンスをまるで"excuse"というよりは"eckskuse"ののように響かせ ていた。ラインワースはそれがどこの方言かを特定できず、発言者の顔を見るために聴衆席を見回した。参加者の質問は許可されていたが、それは通常パネリス ト間の議論をさえぎるようなものではありえなかった。


男は観客席の間の狭い通路に立っていた。それは背の高い、ほとんど6フィート2 インチ(188センチ)ほどもある、50代がらみの男だった。彼の髪はほぼ肩を隠すほどの長さで、ほとんどが黒髪だったが、目の覚めるような純白の縞が混 じっていた。一筋は右耳の前に、もう一筋は右耳の後ろに。この純白の筋は二重 な意味で驚きだった。というのは、その男は髪にそんなハイライトを、特にそう いうふうにずいぶん突然に不均等に入れるタイプにはとても見えなかったから だ。その背の高い男は胸を傲然とそらし、高い背をさらに高く見せながら立って いた。見るからに気位の高そうな男だった。しかしまた明らかに幾多の経験をか いくぐってきたであろう男らしかった。男が近づいてきたとき、ラインワー スは彼の左足の動きがおかしいことに気が付いた。膝がうまく曲げられずに、大股で歩くために左脚を大きく振るような歩き方をしているようだった。し かしとにかく、彼は大股で歩いてきた。圧倒的な存在感のせいで、会議室全体が彼の登場に目を奪われていた。


「申し訳ない。」彼は無愛想な口調で言った。彼の言葉にはやはり奇妙な響きが あった。これは地方の訛りではない。ラインワースは気が付いた。外国人か?ア メリカ人ではないだろう。男は続けた。「やむを得ない事情で遅れてしまった。」


彼は小さな段差を上り、端に空いていたパネリストの椅子に座った。それはライ ンワースのちょうど正面だった。彼は少しぎこちなく身動きをした。足の怪我以 外にも、まるで何か他の傷が痛んだかのように。近くに座ったラインワースに は、銀髪の部分の皮膚に赤い瘢痕があるのが見えた。


「どうぞお気になさらず。フォン・デム・エーベルバッハ少佐。」スティルワック准将が微笑を浮かべて言った。「ようこそおいでくださいました!」


フォン・デム・エーベルバッハか!ライムワースは即座に名前を認識し、まっすぐ 座りなおした。ラインワースは討論会の直前にパネリストに決定したため、論敵を調べておく時間が十分ではなかったのだった。とはいえ、賛成側に立つ愚か者を論破するのは容易なことだろうとも考えてもいた。今、彼は少なからぬ 畏敬の念を感じていた。鉄のクラウス本人とは!フォン・デム・エーバーバッハ の名前は、あらゆる軍関係者の間で伝説だった。ラインワースに至っては、彼は とっくに死んだ歴史上の人物だと考えていたぐらいだった。彼の父親であるライ ンワース陸軍中将は、息子が若かったころに就寝前の物語として、しょっちゅう話し聞かせてくれたものだった。北大西洋条約機構の誇る最高の諜報将校と、 その命知らずな任務が世界を救った数々の物語を。


「あなたいったい誰なんですか?フォン・デム・エーベルバッハ少佐とや ら…?」軽はずみな若造を、複数の司令官が叱責する声があちこちから聞こえた。


男は悪魔そのものの悪運を持っているとされ、いついかなる任務でも、それを命 じられさえすれば常にたがわず遂行してきた。彼と彼のチームは、自殺式の任務 から何事も無く生還したことすらあった。その生涯のキャリアを通じて、彼はわずか5人の部下しか失っていなかったはずだった。アルファベットと呼ばれる少 佐のチームに属することは、たとえそれが不興を買ってアラスカにとばされたと いう不名誉ですら、西側の諜報員が自慢ができる最高級の経歴のひとつだった。 軍隊が持ちうる限りの威風と尊厳があるとすれば、これはまさにそれだった。つ まりこの男は、ライムワースがそこから何かを学ぶべきであると認める、数少な い男たちのうちの一人だった。


「発言していたのはあなただったかな?」フォン・デム・エーバーバッハは不思 議な魅力的を湛えた目で彼を見つめ、尋ねた。ラインワースはなぜそれがしょっ ちゅうレーザー光に喩えられたかを直ちに理解した。その男が相手の目を覗き込 むとき、視線は相手の魂の奥底までを照らし出して、そこにある邪悪ななにかを 完膚なきまでに叩き潰そうとするからだった。男が年老いていたのは残念だっ た。おそらくはまだ現役だろうが、たぶん若い頃のように最前線に出ているわけ ではないだろう。もしフォン・デム・エーバーバッハが、アルカイダの追跡にあ たっていたなら、やつらは全員とっくにグアンタナモ監獄にいるにちがいなかっ た。もしかするとNATO最高の諜報将校が米国を訪れている理由は、会議ではなく そのことかもしれないのか?彼ならなんらかの指針を示すことができるのは確実だ。


「私です・・・ああ…はい。同性愛者の件です。彼らは過酷な状況に対処する能力がない。」


見事な弓なりの眉の一方がつり上がった。ラインワースはそれを見て、子供のころちょっと変わっていた妹に無理やり見せられた、数え切れないほどのスター・ トレックのエピソードをなぜか連想した。


「それは本当かな?」たった一言の質問だったが、そこには十分に偽り無く誠実 な響きがあった。それでもなお、舌を丸めた"R"の発音のなにかが、同じことを アメリカ人が発言するときよりも厳しい響きにしている、そんな何かがあった。 少佐は少なくとも7つの言語に堪能のはずだ。ラインワースはそう記憶してい た。それは彼が子供のころに聞かされて今でも覚えていた、フォン・デム・エー ベルバッハ少佐に関するトリビアのひとつだった


「ええ、はい。あの…、あなたはそうは・・・? ええと、私が言いたいのは、それ は明白なことではありませんか?また、それを許容すると士気に悪影響を及ぼす だろうという問題もありますし・・・」


彼は発言を続けられなかった。...何かが会議室を、優雅に目立つ歩き方で横切 ろうとしていた。何か。雀のように地味な格好の聴衆に立ち混じった、カソリッ クの枢機卿のように真紅の服の何か。しばしの躊躇の後、ラインワースはそれが 一人の男性であることを認めねばならなかった。ひょっとすると会議の邪魔に来 た人間、それも多分ゲイの団体のうちの一つから? 彼に見えたのはレザーと鋲 の恐ろしげな組み合わせではなく、たっぷりした布を使いながらも体の線を強調 する、金の縁取りのある真紅の上下だった。その長身の男は、蜂蜜色の黄金の巻 き毛のせいで、高い背がさらに高く見えた。そして彼の耳に、指に、首に、派手 な飾り物をこれでもかと満載していた。唇は妖しげなバラ色に見えたし、目もとは確実に化粧していた。虫唾が走る!


「皆さん、ごきげんよう!」男は陽気に手を振った。ラインワースが愕然とした ことに、何人かのベテランの軍人たちが片手を途中まで上げ、手を振り返そうと したのだった。彼らはすばやくその手を引っ込め、今自分が何をしようとしたの か自分で訝しんだ。「ずいぶん申し訳なかったね。遅れてしまったんだ。おやお や、ここは満員じゃないか。素晴らしいね!と言うことは、私はあそこに座ればいいのかな?前を失礼させていただくよ。そう、どうもありがとう。ああ、ご機嫌いかがかな?おや、ご容赦願いたい、そんなつもりは無かったんだ。ああ、あ りがとう。悪いね。どうも。」この男もアメリカ人ではなかった。その歯切れの いい言葉遣いから明らかだった。英国人だ。


通路が狭かったため、その男を通すために兵士たちは立ち上がらねばならなかっ た。彼が通り過ぎるとき、何人もの兵士たちは突然たじろいで身をそらせた。ラ インワースはその理由を想像でき、身震いをした。


鉄のクラウスが、もう一人の遅刻者をどう見ているのかが気になり、ラインワー スはフォン・デム・エーベルバッハの方へ目をやった。おもしろいことに、彼は は明らかに苛立っていた、ほとんど激怒しているように見えた。貴族的なシル エットの顎の筋肉が、ピクリと動いた。唐突にある考えが沸き、ラインワースは 侵入者に向かって手を振った。「ご覧ください!」と彼は言った。


金髪の外国人は立ち止まり、彼に目を向けた。彼の真後ろには、巨大な浅黒い肌 の兵士がいた。後ろの兵士は腕を差し出していた。彼が体を一押しでもすれば、 この英国人を傷つけてしまうのを心配しているかのように。そうしつつ、兵士は 真剣に困っていた。


「あなたはその、背中を守っている男性といっしょに喜んで戦場に赴けます か?」ラインワースは「背中を」をほとんど「けつを」とまで口に出しかかった が、女性から何か言われるかもしれないと考え、またそれがひょっとするとやや 思わせぶりになってしまうかもしれないと考え、思いとどまった。


鉄のクラウスは頭を傾け、ラインワースを凝視した。それからドイツ人は、一瞬たりとも彼から目を逸らすことなくテーブルの上のグラスを掴み上げ、水を飲ん だ。ラインワースは落ち着きの悪さを感じた。レーザー光、というよりむしろ、 彼にとっては外科手術用のメスだった。ドイツ人はまだ怒っているように見えた。いや、疑いの余地もなく、怒りに満ち満ちていた。まさに思ったとおり?その通り だ。ラインワースは自分自身に言った。そうにちがいない。こんなやり方で挑戦する度胸を持てたことに、彼は自分自身を褒めてやりたくなった。あとはエーベ ルバッハ山の噴火を心待ちにするだけだった。


返事を待っているのは彼だけではなかった。部屋全体が完全に沈黙していた。聞 こえているのはある音だけだった。柔らかい、なにかさらさらした金属の鎖の音。それは真紅の服の男の方向から聞こえてくるように感じられた。だがライン ワースには、NATO最高の男から浴びせられる氷のように冷たい凝視を振り切るこ とができなかった。この50歳を過ぎた鉄のクラウスは、ひょっとするとかつてほど恐ろしい男ではないのかもしれなかったが、それでもラインワースは心の中 で、この男がかつて群れを統率する最上位の雄ライオンであったことを疑わな かった。多くの戦いの傷跡が彼を押しとどめたにちがいなかったが、それでもな お、この男はは指揮を放棄するには程遠かった。


「貴兄方はご存知かな。」ドイツ人は口を開いた。彼の外国訛りは先ほどよりも やや濃くなっていた。「今日私遅れた理由を?」


ラインワースは困惑を感じたが、率直に首を横に振った。「いいえ。少佐殿。」 彼は自分の職位が少佐よりも上にあることを承知しており、ということは通常で あれば、相手をこのように敬意を払った表現では呼ばなかった。しかしながら、 相手は明らかに軍人中の軍人であり、単なる形式的な階級を超えて、彼には威厳を感じさせる何ががあった。


「俺が横になって寝ている間に、誰ぞが俺の目覚まし時計を盗んだのだ。」


「あ・・・あなたの目覚まし時計を?なぜそんなことが?あなたのホテルの部屋で?」


ドイツ人の諜報将校は煙草を取り出し、火をつけた。ストーンホテルがルビー ルームを禁煙区域に指定していたことを伝える勇気は、誰にもなかった。


「Ja, ホテルの俺の部屋でだ。だからもちろん目覚ましは鳴らなかった。俺は六時半に鳴るように設定していた。それが鳴らなかったので、6時32分に目を覚ました。なんど言い聞かせても、やつが飽きずにこのゲームを続ける理由が、 俺には理解できん。」


「少佐・・・?いったい何をおっしゃっているのか、私にはよくわからないのです が・・・。」


「起床が二分遅かったから、到着が五分遅れたわけではもちろんない。」男は続 けた。彼は穏やかに話した。それでもなお、彼の一言一言がすべての会場全体に 伝わっていることは疑いなかった。「俺が今日遅刻したのは、朝のジョギングを 済ませてシャワーを浴びた後、服を着る前に俺のホテルの俺のベッドに腰掛ける という、途方も無い間違いをしでかしたせいだ。俺はそのまま押し倒された。遅れるからやめろと俺は言った。だがやつはやめなかった。こいつは全く、驚くほ ど俺の言うことを聞かん。」


何のことだ?ラインワースは内臓が沈んで行くような感覚と共に考えた。フォ ン・デム・エーベルバッハはそういう意味で言っているのではないに違いない。 彼はふざけているに違いない!


「喜んで赴いた戦場でその男に背中を守ってもらう問題だが、」煙草を持った手が気障ったらしい英国人を指し、その男は微笑を浮かべて手を振り返した。「そいつは俺の背中より俺のけつの方をむしろ気にしとるんだが、まずはその質問に 答えておこう。そう、一度そうなったことがあった。それからその後数え切れんほどそうしたこ とがある。有事に際し俺が自分の隣に、もしくは後ろに置きたいのはほかでもな い、この男だ。そして本日遅れた理由はこの男、ドリアン・レッド・グローリア 卿、そうだな、この男をご存じない方のためにもう一度紹介しておくが、レッ ド・グローリア伯爵が、マットレス越しに俺を犯しにかかったからだ。」


それから彼は立ちあがり、大きく煙を吹いた。


「世界中のほとんどの文明国のほとんどの軍隊に、同性愛者たちは存在する。それが禁止されている場合ですらな。訊かざるべし、言わざるべし。それをべらべら喋らんでおればそれでいい。ただ善良な兵士として命じられた任務に 従え。ところで、貴兄方はこれまでにスパルタまたはアレキサンダー大王のこと をお聞き及びになったことはおありかな?俺が言いたいのは、現実を認めろということだ。この会議は全くの時間の無駄だ。ドリアン、とっととここから 出て行け。それから皆さんのポケットにちょっかいを出すんじゃない。- それでは、我々は失礼させていただくとしよう。」


THE END



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作者から: 私はクラウスが同性愛を嫌悪する意見に立ち向かうというアイデア に魅せられました。Lynnworthはただのランダムなホモフォビック(同性愛嫌悪 者)で、実在の人物に基づいているわけではありません。

訳者から:
米軍には同性愛者であることを公言して軍務に就くことを禁じた規定があり、しかし1993年より同性愛者に対して「聞かない、言わない方針(Don't Ask, Don't Tell policy)」を運用することによって実質上彼らを軍に許容してきた経緯があります。この方針は当時は同性愛者の権益にかんする進歩とされましたが、時代の変容に伴い自らのセクシュアル・アイデンティティを表明することの禁止というのは、マイノリティへの差別にほかならないのではないかと考えられるようになりました。オバマ政権は「同性愛者の軍役の禁止」および「Don't Ask, Don't Tell policy」双方の撤廃を発表、2011年9月20日より、同性愛者の兵役が正式に公認されます。このタイミングでこのフィクの翻訳を発表できたのは、私にとっても喜ばしいことです。

2011/08/15

【海外フィク翻訳】Even the Clouds Weep - by Margaret Price

    
Even the Clouds Weep
by Margaret Price
Fried Potatoes com - Even the Clouds Weep 
【警告】上記のリンクには成人向けコンテンツが含まれている可能性があります。
 18歳未満の方、または公共の場所からのアクセスはご遠慮ください。
   
  

著者によるメモ: 

着想:彼らだって、20代のころのように走り回るにはすこし歳を取ってきたのでは?そして公然とゲイを名乗るドリアンが、エイズの時代に生きつつあります。それから私は、Jay Tryfanstoneの"Crossing the Lines"を読み、そして車輪が回転を始めたのです... 

本作は、私が作品の中では初めての、クロスオーバーではない純粋なエロイカフィクであり、2005年9月の作品です。また、私の第四十番目の物語としてFried-Potatoesに発表された作品でもあります。そしてこれが最後の作品にならないこともまた、明らかでしょう。 

*ジェイに感謝を捧げます。彼は私が彼の物語の中からいくつものアイデアを拾い上げて活用することに、許可を与えてくれました。


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雨だ。

イングランドではなぜいつも雨なのか。

俺がこの国を嫌うのも無理はない。

クラウスは混雑した駐車場にスペースを見つけ、急速に暗くなりつつある空を見上げながらエンジンを切った。午後遅くだったが、厚い雲のせいでまるで夜のように空が暗くなった。小雨だったが、すぐにそのままでは済まなくなりそうな空模様だった。遠方ではすでに稲妻が瞬き、そして彼の感じた不吉な予感を強調するかのように、雷鳴がとどろいた。

彼は車から出る前に彼のタバコを吸い終えた。喫煙は禁止されている。だからといって今までだって吸うべきだったというわけでもなかったのだ。いまいましい医者だ。彼の医師は今イギリス海峡の反対側にいる。少しぐらいは構うまい。

医師のことをを思い出し、クラウスは目の前の建物を見上げた。病院。彼は何百マイルかの距離を何時間かかけて旅をし、たった今ここに辿り着いたのだった。彼はこの旅のきっかけとなった電話を思い出していた。

「お邪魔して申し訳ありません、エーベルバッハ大将。他にご連絡すべき方に思い当たらなかったもので。」

クラウスは、その声が誰であるか思い出すまでに、しばらく考える必要があった。ボーナム。グローリア伯爵の執事であり、右腕であった男だ。彼と最後に話をしたのがいつであったか、クラウスには思い出すことができなかった。そして彼は黙ったまま、ドリアンに関する話に聞き入った。

「それで、予後はどうなんだ?」彼は、それが気なって仕方がないことに自分でも驚きながら尋ねた。「やつはどこにいるんだ?」自分でもさらに驚いたことに、彼はすぐに旅の手配を整え、執事にスーツケースを準備するよう命じ、次のフライトでロンドンに飛んだのだった。ホテルを予約する時間すら惜しんだまま。

クラウスは建物に入り、灯りのまぶしさに目を細めながら、コートについた霧雨の水滴を払い落とした。彼が唇の形だけを会釈の形にしながら大股で受付へ向かうと、受付の制服を着た男は背筋を伸ばして座りなおした。私服姿ですら、ドイツ軍人の挙措は、それがただものではないと知れるようだった。

そして今とうとう、クラウスは正しくその階の、正しくその部屋の前で、正しく閉じたドアに向かって立ちすくんでいた。俺はいったいここで何をしてるんだ?彼はただちに背を向けて、ドイツに戻りたくなった。そしてすべてを忘れる。イギリスになど来なかったふりをする。しかし、それは臆病者のやり方だろう。そして、鉄のクラウスを臆病者と呼べるものは誰もないはずだった。

ドアのそばには掲示があり、訪問者は看護婦の詰め所で登録をする必要があるようだった。また、ドアには面会謝絶の札が下がっていた。クラウスはどちらも無視した。鉄のクラウスがつまらん規則になぞ縛られたことはない。彼は静かに扉を押し、中に入った。部屋の灯かりはついておらず、厚くなりつつある嵐の雲が、さらに部屋を暗く曇らせていた。

彼は、その部屋の飾り気のなさに一瞬唖然とした。彼はそこが、大量の花と、巨大なぬいぐるみと風船と、とにかく色とりどりで派手なものでいっぱいだろうと思い込んでいたのだ。だが彼の思い込みに反し、そこにあるのは見舞いのカードの束と、籠いっぱいの未開封のカードだけだった。花瓶に生けられた花は萎れきっており、明らかに水を替えられていないようだった。部屋はドアの札の言葉の通りに叫び声を上げていた。私を一人にしてくれ!、と。

クラウスは部屋に足を踏み入れ、ベッドに横たわって窓の外に降り始めた雨を見つめている男に目を落とした。そしてもう一度凝然とした。チューブとワイヤーが、その男の体のあちこちに差し込まれていた。かつて彼が知る限りは最も健康的でたくましかった男は、今驚くほど脆弱に見えた。病が、彼の堅牢さを明らかに掘り崩してしまっていた。ドリアン・レッド・グローリア。グローリア伯爵。変態。気障。レースとフリルのダンディ。彼は今、間違いなく絹地ではあったが驚くほど実用本位の、​地味な色合いのパジャマを着て横たわっていた。彼のブロンドの髪はざっくりと三つ編みにまとめられ、リボンやレースといういつもの装いではなく、シンプルなバンドで縛られていた。

クラウスは、伯爵の髪が記憶のままの長さであることを見て取った。驚いたことに、彼が覚えていた通りだった。クラウス自身は、髪を彼自身の好みよりもかなり短くしていた。少将職への昇進が内定した際に、肩の長さまでの髪が職位には不適切であると認め、それを切ることにしぶしぶ同意したのだった。そのときですら、上層部が希望したほどには短くはしなかったのだが。退役が決まった今となっては、彼は髪を元の長さまで切らずにおくつもりだった。伯爵のブロンドの巻き毛にときおり混ざる白いものは、明らかに彼の病気のストレスによってもたらされたものだったが、伯爵とはちがい、クラウス自身の黒い髪ははっきりと年齢の兆しを示していた。それはこめかみに混じる白いものから始まったが、今ではグレーの縞があちらこちらで見えるようになり始めていた。

いつ俺たちは老いたのだろう?彼は思った。いつそれが起こったのか?この変態がどこへ行っても自分にちょっかいをかけていた日々は、まるで昨日のことのように思えるのに。あらゆる機会をとらえて俺に干渉し続け、しかも明らかに常に毎度それをにやにやと楽しんでいやがったのに。こいつは常にそうやって人生を謳歌していた。ある日、向こうへ行けと、立ち去れと、千回目の憎まれ口をやつに叩いた。するとこいつは実際にそうしたのだった。そして今ここ、病院のベッドにこいつは横たわっている。ベッド脇に立っているのは老いぼれて疲れ果てた兵士の成れの果てだ。しかもそいつは、自分が何でこんなところに立っているのかを自問していやがる。

クラウスは、自分のまだ豊かな髪をかき上げて、なぜ伯爵のの虚栄心がその金髪に混ざる白いものを隠そうとしないのかいぶかしく思った。鉄のクラウスが髪を染めるなどということは金輪際ありえないが、彼が唯一自分の虚栄心を認めるとすれば、エーベルバッハ家の男性の大多数にとって悩みの種だった、生え際の後退が彼には起こらなかったことを、彼がまんざらでもなく思っているという事実だけだった。この件に関する彼より年下の、しかしすでに禿げ上がっている親族たちからのやっかみの言葉は、実のところ不愉快なものではなかった。彼はそのこと思い出して低い含み笑いをもらし、それがようやく自分の存在を、部屋の向こう側の人間に気づかせることになった。

「誰であろうと、ここを立ち去ってくれないか。私を心静かなままにしておいてくれないか?」ドリアンは、こちらを向くことすらしないまま、静かに言った。彼の声は疲れていて、言葉の端々に苦みを帯びた鋭い諦めの口調があった。

「それはずっと俺のセリフだったな。」

ドリアンは、ほとんど跳び上がりそうになった。かつて聞き慣れた声。紛れもないドイツ語の訛り。彼は頭を巡らせて、部屋の暗闇に浮かぶ姿を見ようとした。「誰なんだい?」彼は、可能な限り詰問するような口調で尋ねた。「きみが誰であろうと、それほど面白がる気にはなれないね。」

クラウスはベッドへ近づいた。突然の稲妻が彼の顔を照らした。「俺にはユーモアのセンスはないんじゃなかったのか?」彼は落ち着いた声で言った。

「クラウス...?」ドリアンは上体を起こし、まるで彼が幽霊であるかのようにベッドサイドに立つ彼を凝視した。「なんてことだ…。」彼は茫然として片手を髪にやった。腕のチューブが目に入り、我に返った彼の衝撃と喜びは、怒りに変わった。「いったい何だってこんなところにまで顔を出したんだい?きみが私を嘲笑いになんかこなければ、私は心安らかに死ねたのに。」

クラウスはややこわばった。「俺はおまえを嘲笑いにここまできたのではない。」

「笑いに来たんじゃないって?」ドリアンはまだかなりそれを真に受けることができず、なんとか考えをまとめようとした。「じゃあ、何をしにここまで来たって言うんだい?」

「俺には・・・俺にもわからん。」

ドリアンは口を開きかけ、またそれを閉じた。雷鳴だけが鳴り響いていた。その困惑した表情は、他の状況であれば笑えるものだっただろう。「きみはドイツからはるばるやってきた。もう誰にもわからないぐらい何年もたってから。そしてきみは何故来たのかわからないと言う。」

クラウスは、腕にかけていた濡れたコートを椅子の背に投げ、それから自分も椅子に座った。「ボーナムが俺に電話をよこした。」彼は静かに語りはじめた。

ドリアンは目を閉じた。「それじゃあ、彼はきみに言ったんだね…」

「そのとおりだ。クラウスは、続きを言う前に少し言いよどんだ。「それから、おまえの診断書も見せてもらった。」

ドリアンは、いったい何年間そうだったのか、もう数え上げるのもばかばかしくなるぐらい愛していた男の顔を見た。そしてとうとうあきらめた男。あらゆる機会において自分を怒鳴りつけ、数え切れないぐらい何度も死にそうな目に合わせた男。「きみは私が死ぬところを見にきたのかい?エーベルバッハ大将?」

「なぜ?自殺でもするつもりなのか?」クラウスは嘲るように答えた。

ドリアンは何かぶつけてやれるものがあればと思った。「くそったれのクラウス!私はもうすぐ死ぬんだよ!」

「ああ、そうだな。」クラウスは同意した。ドリアンが痛烈な反発をしてくる前に、クラウスは付け足した。「おまえの主治医は少なくともあと15年は生きられると言っとるぞ。厳格な食事制限をすれば、もしかすると20年。」

「ああ、とても面白いね。」

「おまえはもうすぐ死ぬわけではない。馬鹿者。」

「私は癌なんだ!」

「癌だった、だ。」クラウスは鋭く修正した。「そしてそれを切除する手術を受けた。結果は良性。報告書にはそうあった。自分自身を気の毒がってめそめそそこに横たわっている暇があったくせに、ちゃんと読まなかったのか?」

「黙ってろ!皮の厚いプロイセンの豚喰い野郎!」

小さな笑みが、クラウスの口の端をぴくりと動かした。彼は腕を組んで、椅子の背にもたれかかった。「おまえは正しかったな。俺はおまえを嘲笑うためにここまで来たのさ。」

「くそったれの偽善者め。」

「堕落した同性愛者が。」

「ろくでなしのドイツ野郎。」

「大英帝国の変態男。」

「うすのろ。」

「ド気障。」

ドリアンは、もっといい悪罵をひねり出すのに苦労した。

「馬鹿者。」笑顔が再びクラウスの顔をぴくりとさせた。「おまえの負けだ。」

「くそっ、頭がうまく回らないんだよ。」

驚いたことに、クラウスは実際に笑い始めた。彼がこんな風に笑うのを聞いたことがなかったと、ドリアンは確信をこめて言うことができた。彼はその時々に応じて、冷笑、嘲笑の忍び笑い、さらには含み笑いを漏らすことはあった。しかし、こんなふうに楽しそうに笑うことは決してなかった。

「なんてことだ。鉄のクラウスが笑えるなんて。」彼は驚嘆した。それから彼は、自分が言ったことのあまりの馬鹿馬鹿しさに、自分でも笑い出した。笑うと痛みを感じたが、それでも気分がよかった。最後に笑ってから、もうずいぶんたっていた。この病気の診断を下されるよりも、実のところもっとずっと以前から。

「そうだ。鉄のクラウスだって笑えるさ。」ドイツ人は同意した。そのことに彼自身は幾分苛立たしく思っていたものの。言いたかったことが山のようにあるはずだったが、どう切り出していいか全くわからなかった。そしてまた、今なぜそれを伝えたいのかすら、まったくわからないのだった。

「それで、きみがここにいる理由、それは?私を笑わせるためかい?私が死にかけていることを忘れさせるため?」

「ドリアン・・・」

「ああ、なんてことだろう。私は本当に死にかけているんだ!」ドリアンは叫んだ。「そしてそれが、きみが初めて私を名前で呼ぶきっかけだなんて。」

「いや、そうじゃない。」クラウスは鋭く言った。彼は、話し出す前に深く息を吸った。「俺の医者はおまえの医者よりも楽観的だ。」

ベッドの男はしかめつらを返した。「私のことをきみの医者に相談したのかい?」

「いや。俺のことだ。」

ドリアンは瞬きをして口を開いた。「何を言ってるんだい?」クラウスは真面目な顔でドリアンを見かえしただけだった。「きみが、死ぬような病気なのかい?」

クラウスはうなずいた。「そのとおりだ。」

ドリアンは驚きの余り黙りこみ、クラウスから目を離せないままでいた。彼はクラウスをよく理解していなかったのかもしれなかった。誓ってもいいが、このドイツ人は自己憐憫に浸ることをやめさせようと、ドリアンをからかっているにちがいない。「私には...」彼はそれを事実だと受けることができずに、再び片手を頭にやった。「きみ、いったい何を・・・。ああ、こんちくしょう、薬のせいで頭が回らないんだ!」

クラウスはドリアンが青い目を大きく見開いて自分を見つめているのを感じ、椅子の中で苛立ちに身じろぎをした。そんなふうに俺を見るなと怒鳴りつけないでいるためには、自分を押さえつけなければならなかった。だが今さらどんな違いがある?「俺は、NATOを退役した。」

「知ってるさ。思い出してくれるかな?きみに花を送ったよ。」

クラウスは大きくため息をついた。忘れられるはずもなかった。彼のオフィスに現れたのは巨大な怪物じみた花のかたまりで、金の型押し文字で"GOOD LUCK"と書かれた旗が立っていた。それは建物の中にすら持ち込ませず、目にするなり焼却処分を命じたはずだった。むしろ葬式向きの代物だった。

クラウスは、なにか訊きたげな顔のドリアンを見つめた。「ボーナムが電話をよこして、俺に告げた。」彼はまたそこで行き詰った。どう話をしていいのか本当にわからなかった。

「そう、それから・・・」

「それから...」クラウスの心が突然また叫び声を上げた。俺はこんなところで何をしているんだ?こんなことになってしまった後で、いまさら何かをやり直せるとでも思っているのか?「これは間違いだ。」彼はいきなりそう口走り、はじかれたように立ち上がってコートをひったくった。「俺は来るべきじゃなかったんだ。」

ドリアンは枕にもたれかかった。怒りが彼の表情に表れた。「わかったよ。きみの病状は私よりひどい、そういうことだね?それできみは今からドイツに戻り、ちっぽけな兵士のように死を迎えると。そういうわけだ。」彼はいまいましげにそう吐き捨てた。

クラウスは引き返した。目がぎらぎらしていた。彼はベッドの男をにらみつけながら立っていたが、自分にそれが言えるとは思えなかった。

「続けろよ。さっさと言っちまえよ、このろくでなし。」

クラウスは、深く息をついた。しかし彼の返事は、ドリアンが覚悟していたものではなかった。彼は低い声で言った、「俺は怖いんだ。」

ドリアンは口がをぽかんと開けた。彼は驚きとともに見つめた。今聞いたことをまともに受けとることができなかった。「何て・・・?」彼はひょっとすると自分の頭がおかしくなったのかと考えた。飲んでいる薬のせいか、もしかすると世界がちょうど上下逆さまになっているせいかで。「ええい、くそっ。何て言ったらいいんだ...」彼は深く息を吸い込み、考えをまとめようとした。「クラウス、きみいったい、私がどう返事すると思ってそんなことを言うんだ?」

「俺にもわからん。」クラウスは再び座りこむと、膝の上にコートを置いてそう認めた。「ボーナムが電話をよこしたとき、俺は、もっと早く来るべきだったと・・・」彼はまたそこで口ごもり、窓の外の荒れ狂う嵐に視線を転じた。しばらくたって、彼は静かに言った。「俺はおまえのことがわからない。なぜおまえはあんなに何年も俺を追いかけていたんだ?」

「きみを愛していたからだよ、馬鹿なドイツ人。」今にもこぼれ落ちそうな涙を食い止めようと闘いながら、ドリアンは答えた。「そして今でもきみを愛している。そのことはきみに、もう数え切れないぐらい何度も伝えたよ。」

「ああ、その通りだ。俺にはそれでもまだわからんのだ。」クラウスはやはり雨を見つめたまま言葉を押し出した。彼を見つめている大きな青い目を避けたほうが、話を続けやすかった。「そしてこの先それを理解できるかどうかすら、おれには約束できん。俺は、お前に報いることができるかどうかすら約束できんのだ。」

ドリアンは心臓が止まりそうになるのを感じた。彼が『報いる』と言う言葉を使った?「きみはいったい何をいっているんだい・・・?」彼は慎重に尋ねた。

「俺が言っているのは...」クラウスは言葉を切った。彼はそこで大きく見開かれた青い瞳を正視するように、自分自身に強いなければならなかった。今まで口に出すことになると考えたことも無かった言葉を、喉からしぼりださねばならなかった。それはドリアンが今まで予想したことも無かった言葉だった。「俺は一人では死にたくない。」彼は再び言葉を切った。"「俺が言っているのは...俺が頼んでいるのは...ドリアン、おまえ、俺と・・・」彼は目を閉じた。言葉そこまで出掛かっていた。彼はただそれを口にすることができなかったのだった。

「きみは、私にいっしょにいてほしいと?」ドリアンは信じられない思いで尋ねた。

クラウスは、彼を見るのを恐れるようにうなずいた。そんなことをしたら自分が何をしでかすか判らないとでも言うように。何を口にするか判らなかった。その言葉について考えることさえ難しかったが。

水を打ったような静けさは、ドリアンの一言で破られた。「なぜ、私なんだい?一体全体どうして?」

クラウスには、いずれはそれを訊かれるだろうと判っていた。彼はそれを恐れてすらいた。彼は長い間押し黙っていた。それから、とうとう認めた。「おまえだけだからだ。今まで俺を気にかけた、俺が気にかかった、唯一の人間だからだ。彼は自分を奮い立たせ、深呼吸をしてこれまですべての中で最も彼に似つかわしくない一言を吐いた。「・・・頼む。」

その一言がドリアンを揺り動かし、ついに涙を決壊させた。彼はクラウスがついた深いため息を聞き、クラウスが自分の感情的な表現に苛立っていることを知って、いつもの非難と断固たる叱責を待った。だが何も起こらなかった。ドイツ人が突然手にティッシュの箱をもって彼に寄ってきたとき、ドリアンはほとんど口から心臓が跳び出そうに感じた。

ドリアンは苦労して体勢を立て直し、箱からティッシュを何枚か引き抜くと、急いで涙を拭った。これまでは、自分でそれを引き抜き、自分で気持ちを落ち着けようとしていたのだった。

「長居をしすぎたようだ。」クラウスは静かに言った。

「だめだ、行かないでくれ。お願いだ、行かないでくれ!今はだめだ。」ドリアンは、腕を伸ばし、クラウスをつかんだ。

クラウスは驚いてティッシュの箱を取り落とし、反射的に拳を握り締めた。彼の全身は、予想外の肉体的な接触に反応して硬直していた。それから彼はドリアンもまた身体の緊張させていることを感じた。彼は明らかに自分が間違ったことをしたと認識していて、次に起こることを考えて身を硬くしているのだった。クラウスは見下ろした。ドリアンはとても痩せて、脆弱になっていた。こいつを真っ二つにしてやるのも簡単そうだった。もし数ヶ月前、クラウスが健康だったころなら・・・。

驚いたことに、クラウスはドリアンを殴らず、言葉の暴力も浴びせなかった。そればかりか、自分を掴んだドリアンの手をはずそうともしなかった。彼はただそこに立ち、ドリアンが彼にすがりつくままにしていた。神よ!夢なら覚めないでくれ!

「お前が入院しているときに、こんなことを言いに来るべきではなかった。」クラウスは穏やかに言った。彼の目は、またもや嵐を見つめたままだった。鉄のクラウスにとては、これは謝罪に等しかった。

「ああ、こんなところにいるなんて。」ドリアンは涙を拭った。「きみが私と過ごしたいなら、私はそうするよ。」彼らの視線がぶつかり、そしてすぐに離れた。「世界のどこまでも付いてゆくよ。ドイツまでなんて、ほんのそこまでのお出かけじゃないか?山の空気は私の健康にいいんだよ。きっと。」それから彼は、世界中がひっくり返ったに違いないことを確信した。クラウスがドリアンの宣言を聞いて目を閉じ、一粒の涙を流したのだった。鉄のクラウスは笑うことができるだけではなく、また泣くこともできるのだった。

何を口に出せると思えず、ドリアンもまた沈黙のまま窓の外の嵐を見つめた。彼は、クラウスには後どのくらいの時間が残されているのか考え、そしてまたその答えを知ることを恐れた。

彼はただベッドの上に身を起こして愛する男の腕に身を預けていた。雨雲さえ、喜びのほろ苦い涙を流しているのかと思えた。「きみはまだ、ここへ来たのは間違いだったと思うかい?」

「俺にはわからん。」

ドリアンは、クラウスの胸に顔をうずめた。「君が来てくれて、私はうれしいよ。」彼がしがみついていた腕がそっと引き抜かれるのを感じ、ドリアンは自分が間違ったことを言ったと確信した。引き抜かれた手はしかし、静かにドリアンのの肩を包み込んだ。

「…俺もだ。」
   
   
END