このサイトについて

このサイトについて: 私自身が30年来のファンであり、また海外のslash fandomの一角で80年代から現在に至るまでカルト的な人気を擁する、「エロイカより愛をこめて(From Eroica with Love)」を題材とした、英語での厖大な二次創作群を紹介・翻訳しています。サイト管理者には原作者の著作権を侵害する意図は全く無く、またこのサイトにより金銭的な利益を享受するものでもありません。「エロイカより愛をこめて」は青池保子氏による漫画作品であり、著作権は青池氏に帰属します。私たちファンはおのおのが、登場人物たちが自分のものだったらいいなと夢想していますが、残念ながらそうではありません。ただ美しい夢をお借りしているのみです。

注意事項:
 原作の内容を大幅に逸脱し、男性間の性愛を主題にした明らかに性的な内容を含みます。不快感を覚える方は画面をお閉じ頂けるよう、お願い申し上げます。

2011/07/31

【海外フィク翻訳】Closet Case, Stuck Door - by The Reverand

 
  
Closet Case, Stuck Door
by Reverand
Fried Potatoes com - Closet Case, Stuck Door

Closet Case -  Stuck Door (日本語訳はこちら)
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2011/07/30

【海外フィク翻訳】Closet Case, Stuck Zipper - by Margaret Price

    
Closet Case, Stuck Zipper
by Margaret Price
Fried Potatoes com - Closet Case 
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「くそっ。ファスナーが噛んどる。」俺はなんでこんなところでこんなことをしとるんだと自分自身を呪いながら、少佐はうなった。さっきまで退屈なパーティにうんざりしていたはずなのに、気が付くと伯爵にクロゼットの中に引きずり込まれていた。伯爵はイブニングドレスを着こんで、上から下まできっちりと女装していた。

「少佐、急いでくれ!」肩越しに振り返りつつ、伯爵は息を潜めて言った。「破かないでくれよ!」少佐はもう一度うなった。「これを下ろせと言ったのはおまえだろうが!」彼は布のかたまりと格闘していた。「なんでこんなことを俺にやらせるんだ!」

「だってきみ、困ってるご婦人を無視できないほうだろ?」伯爵は小癪に笑ったか、返答は少佐のさらなる憤激だけだった。「これを脱がせてくれるだけでいいんだ。あの恐竜が私を見つける前に。」

少佐は布の塊から顔を上げて伯爵を見た。「恐竜?なんだそれは?」

伯爵はもう一度振り返った。「外にいる、あの女だよ。」彼はクロゼットのドアの方へ手を振った。「一晩中付きまとわれたんだ。」

少佐は目を丸くした。「女?」それから口の両端が持ち上がった。「女に追いかけられとるのか?」

「笑うなよ、もう!」

もう遅かった。伯爵は冷たく言った。「全然面白くないよ。」

「そうだな。」

「そうだよ。で、ファスナーはどうだい?頼むよ。」

布のかたまりとファスナーとの格闘に戻る前に、少佐は自分自身に言い聞かせなければならなかった。こいつを下ろしちまえば、無事クロゼットのドアが開けて外へ出られるぞ。やがてファスナーがすっかり下まで降りる音が響き、少佐は勝利の声を上げた。「やったぞ!」

その時ドアが開いた。伯爵を一晩中追い回していた女がクロゼットの外に立っていた。 彼女はぽかんと口をあけて、目の前の光景を見つめた。「なんてこと!」彼女は喘いだ。そして怒りに任せて言い放った。「この…この…淫乱!」そしてドアをぴしゃりと閉めて、泣きながら立ち去った。 伯爵と少佐はたっぷり一分ほど立ち尽くした。一体どうしていいやらわからなかった。

伯爵がとうとう口を開いた。「どうやったらこの埋め合わせができるんだろう。」「なんだと?」「女性を失恋させたなんて、どう考えたらいいんだ?」

少佐は目を逸らした。「ばかもの。」




Closet Case, Stuck Doorへ続く…

2011/07/29

【海外フィク紹介】The Evening Star - by Filigree



Evening Star 
by Filigree
Achieve of Our Own - Evening Star
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"Cinnamon Toast"に引き続き、Filigree作のFanficの紹介です。私ははっきりと男性である伯爵が好きなので、率直に言って"Cinnamon Toast"よりはこちらのほうがずっと好みです。なお、 "Evening Star"とは宵の明星のこと。

Filigreeはたいへん力強い作風のスラッシュ作家で、その作品はしばしば死と、それにまつわる渇望に満ちた性とに縁取られています。私は別の作家と英語における"Slash"と"Yaoi"の微妙な差異についてメールをのやり取りをしたことがありますが、ややこしいことに、その二語はどうやら日本語で言えば、「やおい」と「BL」にそれぞれ相当するようでした。ならばその語意において、Filigreeは明らかにSlasherであるといえましょう。私の認識では、"Slash ≒ やおい"とは常に、ある主体が世界における承認を渇望する物語だからです。(そうです。私は旧世代です。)

言うまでもなく、それを読み物として可能にするには技術が必要です。本作において、彼女の技術はポルノグラフィとしての実現に余すところなく駆使されています。技術と計算のない性描写が落書きよりも性質が悪いものになりがちなのは皆さんご存知のとおりですが、本作は「ある種の女性」向けのポルノとしてバランスの取れた成功をおさめています。

ふたつの主体が相互に本質的な承認を求めるという言わば浮世離れした話の核に、現実的な肉付けを与えているのが、ねちっこい性描写です。それは性玩具を使った電話でのセックスに始まり、やがて一方において初めての経験となるアナルセックスで物語のクライマックスを迎えます。こう単純に書くと非常に陳腐な筋書きのはずなのですが、なかなかそういう水準の作品ではありません。支配と服従を通じた相互承認の駆け引きにより、なぜ当事者が最終的にその行為を望んだのかへの過程を、作者は緻密に設計しています。もちろん、荒唐無稽の謗りを与えることは簡単ですが、それでもこういったものは私のようなある種の病を持つ読者にとっては、癒しに満ちたファンタジーなのです。そして本作は、この種のファンタジーでこの長さのものとしては一級です。同性間のアナルセックスを主体にすえた性描写は容易に異性愛の模倣に陥りやすく、正直なところ読んでいて興ざめなことが多いものですが、そのslashyな描写の妙、また結末の破綻・欠点も含めていかにもslashらしいshashであり、私は本作に魅せられ一気に読了し、なお何度も読み返しました。

以前のエントリでも触れたように、同作者には "Blood and Secrets" や "Cold Iron"などの、冷え冷えするような死や残酷な情交を主題とする"darker Eroica death fic stories"があり、少佐が完全に「受」にまわるJoramの"Moonlight Shadow","Need"などと並んで、ごく少数の読者に熱狂的に受け入れられているように思えます。1000人が読めば999人までが嫌悪感に眉をしかめるようなこういった奇妙な創作物に、性的主体であるはずのある種の私(たち)はなぜ惹かれてやまないのでしょう?これらの作品は、おそらくその熱狂的な読者にとっては逆説的な癒しに満ちたファンタジーとして存在しているはずです。いったい、男性向けのポルノグラフィが「相互に本質的な承認を求める主体」などといったものを描くでしょうか?また、それが読者にとっての癒したりえるでしょうか?日本で「やおい」が、欧米で"slash"がほぼ同時に誕生し、進化してきた理由はなぜなのでしょうか?私たちが性的主体であることを疎外されてきたがゆえの復讐?私たちが世界における承認を得るために必要ななんらかのsacrificeを、登場人物に負わせているから?だとすれば私たちはそもそも罪深い存在なのですか?その罪は私たち自身に由来するもの?それとも社会的に、つまり歴史的に、ひょっとすると生物学的に、あるいはその他のなんらかの理由で烙印を押されたもの?-私にはまだ自分なりの結論が出ていません。

とまれ、このよくできたポルノグラフィを読むという体験は、私においてそうであったように、あなたにとってもなんらかのパンドラの箱を開ける作業になるのかもしれません。特に、あなたが忠実なエロイカのファンであるならば。

Evening Starはネット上で全文の日本語訳が公開されています。力強さと優美さを兼ね備えたスリリングな名訳で、英語版と併せ、私はじっくり楽しみました。ご興味のある方はぜひ探してみることをお勧めします。



2011/07/28

7月のある日

   

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お誕生日おめでとうございます、伯爵。
From BasilLeaves with Love

2011/07/26

【海外フィク翻訳】My Love - by Anne-Li


My Love
by Anne-Li
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【本人談】
ええっ!あの話なの?私たち気が狂ってると思われるじゃない!(ニヤリ) あなたがあれを載せたら、日本人は英語のファンフィクを読むのをやめるんじゃないかしら・・・。あれは私の書いたものの中ではいちばん不真面目で、一番コワレテるのに…。オッケー。載せちゃおう。:)



↑この人があの微笑ましい"The Clothes Make the Man"書くんですからねえ・・・。いやはや。日本の皆さんにHi!って言っといて~とのことです。感想を、ぜひともコメントもしくはメールで頂けないでしょうか。訳して本人に送ります。

というわけで、少佐の狂おしい独白をどうぞ。



2011/07/25

フレグランス


   
金髪くんと黒髪くんは、どんな香りを身に纏っているのでしょう?

金髪くんは、絶対何かつけてますよね。実際、温泉地の近所の古城ではなんかつけてたし。でもあれ、えええ!おっさんがつけるようなそのへんの紳士モノの香水付けてんの!?と驚愕した人も少なくなかったはず。っていうか、私は驚きました。(あと驚いたのはいつぞやの「レブロンの新色」…レブロン…)

海外ファンフィクの世界では、伯爵はデフォルトで薔薇の香りをふりこまいていることになっています。少女漫画的表現である伯爵のバックに飛んでいる薔薇が、漫画の文脈を読みなれていない非日本人にとっては、「伯爵は薔薇の香り」というふうに読めるらしいのです。私もこの解釈は悪くないと思うので、私の伯爵は薔薇の香り。でも、現実にはローズベースのフレグランスって、かなり乙女なのよねー。いくら伯爵でも市販品はちと無理が。


LANVIN Jeanne la Rose











BVLGARI Rose Essential










CHRISTIAN DIOR Addict 2 Eau Fraiche 












(Addict(中毒)という名前は悪くない。買ってみようかな。)


ロクシタンの練り香水とかもありますね。でも、伯爵ならやっぱり自分用のを調合させてそう。薔薇の香りの男性用。どんなだろう。トップノートが結構男性的でスパイシーな感じで、ミドルからラストにかけてだんだん甘いだけじゃない辛さのある華やかな薔薇、とかかな。どんなだ、それ。


薔薇にこだわらないなら、私のイメージの伯爵の香りはこれ。

ROCHAS BYZANCE
















*  *  *

一方黒髪くんはどうかというと、バスルームに何か置いてる絵は見たことあるような気がする。アフターシェーブとかかな。でも本人に聞いてみたらこれはもう決定的に「Idiot! そんなもんつけとらん!」これで終わり。でも終わっちゃうとアレなのでもう少し考えると、彼は多分執事の采配がよくて、わりといい石鹸を使ってると思う。なにか香りの残りそうなやつ。でもすごく自然なやつ。特別高級な手に入りにくいものではなくて、ある程度の階級の人が普段使いにするようなやつ。日本で言うと外商さんが定期的に届けに来てくれるようなやつね。私の頭の中の設定では、伯爵はそれと同じ石鹸を探してイギリスでは見当たらず、代わりによく似た「雨上がりの森の羊歯の葉のような香り」のを少佐用に用意したことにしています。こっちはすっごくいいヤツです。

でも少佐は無頓着なので、ボン市内の自分のフラット(これも海外フィクによくある設定)には、てきとーな市販品を置いてるんだよねえ。シャンプーなんかおっさんくさいトニックシャンプーとかだったりして。うー。あ、でも石鹸はDettolかも!消毒石鹸ってのは少佐好みだし、Reckitt Benckiserは半分ドイツの会社だ。うんうん。




   








*  *  *

あなたとあなたの伯爵はどんな香りですか?
(少佐はなに使ったってどうせ煙草クサイはず・・・)


   *  *  *


明日はAnne-Liの問題作、"My Love"をアップします。すっごく切羽詰った少佐の独白です。少佐が浮気???秘密の恋人???そんなに激しく欲しちゃうの少佐??? Anne-Li、書いてて楽しかっただろうな~



2011/07/24

目立ちたがりの泥棒のテーマ

    
小癪な目立ちたがりの泥棒野郎のテーマソングです!Pet Shop Boysの名曲 "Flamboyant"に、エロイカ初期の名シーン決め打ち。超かっこいい!何べん見てもウットリ。youtubeのアカウント持ってる人はぜひぜひ拍手を入れておいてくださいませ。

ワタクシはLed Zepにはぜんぜん間に合ってない世代なのですが、Pet Shop Boysは高校から大学にかけての思い出ですね~。このFlamboyantは2003年なんで、もっとずっと後ですけど。

ここがすばらしい!(笑)(笑)(笑) 

   Every actor needs
    an audience
 
     Every action is
       a performance

何がすばらしいですって?見てのお楽しみ!損はさせないよ!

全歌詞を動画の下に載せておきますね。
  
わたくしが「エロイカ」で最も愛する場面のひとつ。
ハレルヤエクスプレスに戻った瞬間、少佐に引き寄せられる伯爵。


Flamboyant

You live in a world of excess
where more is more
and less is much less
A day without fame
is a waste
and a question of need
is a question of taste

You're so flamboyant
the way you look
It gets you so much attention
Your sole employment
is getting more
You want police intervention
You're so flamboyant
the way you live
You really care that they stare
And the press deployment
is always there
It's what you do for enjoyment

You live in a time of decay
when the worth of a man
is how much he can play
Every day
all the public must know
where you are, what you do
'cause your life is a show and

You're so flamboyant
the way you live
and it's not even demeaning
You're so flamboyant
It's like a drug
you use to give your life meaning
You're so flamboyant
The way you look
It gets you so much attention
Your sole employment
Is getting more
You want police intervention

Every actor needs
an audience
Every action is
a performance
It all takes courage
You know it
Just crossing the street
well, it's almost heroic
You're so flamboyant

There you are
at another preview
In a pose
the artist and you
To look so loud
may be considered tacky
Collectors wear black clothes
by Issey Miyake

You're so flamboyant
the way you look
It gets you so much attention
Your sole employment
is getting more
You want police intervention
You're so flamboyant
The way you live
You really care that they stare
And the press deployment
is always there
It's what you do for enjoyment

You're so flamboyant
You're so flamboyant 





‐‐‐‐‐
ところで今Wikipedia見てたら、これってひどくね?いくらクリスの別名が「Pet Shop Boysのもう一人のほう」だからって…

2011/07/23

シェパードがこんなに優しいなんて

シナモントーストの中に出てくる若い二人の追っかけっこって、まさにこんな感じ?

 


Or a German shepherd chasing an intruder in black catsuits...

2011/07/22

【海外フィク翻訳】Cinnamon Toast by Filigree


Cinnamon Toast
by Filigree
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ファンフィクションのアーカイブの場として、フィルターと検索よけのかかった別ブログを用意しました。Guilty Pleasuresです。今後は自作・翻訳を問わず、ファンフィクションは基本的にこちらに格納します。

私は翻訳の許可を願い出る際に、「言うまでも無く、この翻訳行為において私は一切の利益を享受しません、私自身のささやかで疚しい楽しみ(Guilty Pleasure)を除いては。」と申し添えており、ブログ名はそこから取りました。そしてFiligreeは"Eroica fanfic is all about guilty pleasures, and I'm happy to help spread the love."と許可を与えてくれたのです。

それでは皆様、愛と疚しさに満ちた週末をどうぞ。
   

   
   

2011/07/21

彼のJealousy、僕のJealousy



僕と同じ金色の髪の男が、僕の想い人に組み敷かれていた。金の巻き毛がふわふわと邪魔をして、男の表情が見えなかった。けれど、口もとが笑っていた。僕の想い人は笑ってなんかいなかった。怒り狂っていた。怒り狂って、光り輝く金髪の男を責めていた。あんな見事な巻き毛と比べられたらかなわない。そう思って僕は伸ばしかけていた自分の淡い金髪を短くしたのに。金の髪の男はベッドに縛り付けられていた。 縛りつけられてなお、勝ち誇って笑っていた。

僕の想い人の前であんなふうに笑っていられる人を、僕はほかに知らない。

僕の想い人は、金髪の男の頬を手のひらで打ち、また手の甲を返して打った。ひとつ、ふたつ。またひとつ。両腕を縛られて逃げようが無く、金髪は打たれるままだった。きれいな形の唇が赤く染まり、やがてたらりと鮮血が染み出るのが見えた。金髪は薄笑いを浮かべたまま、何かを言った。僕の想い人はさらに激昂したようだった。僕はどんな尋問の時でも、僕のあの人があんなに取り乱しているのを見たことがない。あの人をあんなにさせてしまうことってなんだろう?
 
そんなことがあるはずがない。だからきっとこれは夢だ。

それから僕の黒髪のあの人は、傍らの灰皿から煙草を取り上げて、金髪の男へ向けた。金髪はそれでも笑っているようだった。僕の想い人は、緑色の目をさらに深い緑にして、鋭く何事かを問うた。金髪は頭を振り、きれいな、透明な、絶望的に魅力的な声で、笑った。その透明な笑い声は、火のついた煙草をねじりこむように鎖骨に押し付けられても止まなかった。押し付けている僕の想い人のほうが、痛みに引きゆがんだ顔をしているのに。

そんなはずはない。これは夢なのだから。僕のあの人がどこへ行って誰と会っていたかなんて、僕にわかるはずがない。少佐、少佐、どこへ行っていたのですか?誰と会っていたのですか? 伯爵と、会っていたのですか?

夢の中の少佐が伯爵の胸に煙草を押し付けた。その妬け付く痛みを自分にも感じて目を覚ますと、僕は自分が吐精していたことを知った。そのとき突然、夢の中で耳いっぱいにずっと鳴り響いていた曲がこれだと気がついた。Where've you been? Who've you seen? 胸がもう一度、搾られるように痛んだ。 




At dead of night, when strangers roam
The streets in search of anyone who'll take them home
I lie alone, the clock strikes three
And anyone who wanted to could contact me
At dead of night, 'til break of day
Endless thoughts and questions keep me awake
It's much too late

Where've you been?
Who've you seen?
You didn't phone when you said you would!
Do you lie?
Do you try
To keep in touch? You know you could
I've tried to see your point of view
But could not hear or see
For jealousy

I never knew time passed so slow
I wish I'd never met you, or that I could bear to let you go
At dead of night, 'til break of day
Endless thoughts and questions keep me awake
It's much too late

Where've you been?
Who've you seen?
You didn't phone when you said you would!
Do you lie?
Do you try
To keep in touch? You know you could
<a href="http://www.lovecms.com/music-pet-shop-boys/music-jealousy.html">Jealousy 歌詞<a>
<a href="http://www.lovecms.com">LoveCMSの洋楽歌詞<a>

I've tried to see your point of view
But could not hear or see
For jealousy

Where've you been?
Who've you seen?
You didn't phone when you said you would!
Do you lie?
Do you try
To keep in touch? You know you could
I've tried to see your point of view


2011/07/20

【海外フィク紹介】Cinnamon Toast by Filigree


   
二次創作なのですからやっぱりこういうのを紹介しないとだめですよね。
(何が「やっぱり!」だっ!? 「こういうの」ってなんなんだ!)

   
というわけで、超絶甘甘なやついきます!

Cinnamon Toast
by Filigree
【警告】上記のリンクには成人向けコンテンツが含まれています。 
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"Cinnamon Toast"は、Filigreeによる"Food Fantasy"シリーズのひとつです。"Filigree"というのは、英語で貴金属の透かし彫りという意味の単語です。美しい筆名ですね。

"Food Fantasy"シリーズは、 "Blood and Secrets" や "'Cold Iron" などの、彼女の"darker Eroica death fic stories"の埋め合わせをするため(本人談)に書かれたシリーズで、食べ物を主題とした美しい連作です。衝撃的な作風で知られる作者ですが、激情の赴くままに残酷で暗いファンフィクだけを書いているわけではなく、冷静で緻密な計算に基づいた書き手であることがわかります。

さて本作は、海外フィクのお約束ともいえる一点を踏まえています。正典(原作)では、伯爵が正式にNATOの依頼を引き受けたのは一度だけですが、海外フィクでは少佐をタッグを組んであちこちに出かけています。二人を絡ませやすいので、便利な設定ですね。

本作もそれにならい、二人が冷戦時代の東側でとある情報を盗み取ったあと、雪の中のシェルターでNATOの回収チーム待っている一夜の話です。少佐は軽く負傷しています。シェルターに残された前任者の食料の中から新しいパンを見つけた伯爵が少佐にそう告げると、少佐は思いがけないことを言い出します。それは・・・

甘い、美しいお話です。お読みいただければお分かりのとおり、私はこの話の重要な一部を私の最初のファンフィクション「隠れ家にて」に借りています。あまりに魅力的過ぎて抵抗できませんでした。そして回想シーンと、その後の二人の会話部分に、作者のロマンチズムが十分に生かされているのが最も読み応えのある部分でしょう。さらに少しスパイスの効いたラスト!

具体的に書くとネタバレになってしまうので書けませんね。みなさん、どうか原文にトライしてみてください。翻訳、もう少し時間がかかってしまうかも。 誘い受に少しだけ載せておきます。

伯爵は狭いシェルターの棚を漁りながら尋ねた。「足はどうだい、少佐?」

少佐は暖炉の横で体を伸ばしながら、ひどい捻挫のために仮の添え木を当てた左足を動かしていた。痛みに顔をしかめるといった余計なことにはエネルギーを使わなかった。「アスピリンがすぐに効いてくるさ。」そう言って用心深くもう一口水筒の水を飲んだとき、腹が鳴った。空腹にアスピリン。少佐は伯爵に声をかけた。「何か腹に入れるものをよこせ。薬が胃を荒らす前に。」

「きみは好き嫌いが多すぎるよ。」伯爵は優しく言った。「あれは食えん、これもだめ。胃薬をポンド単位で食べればどうだい?―私はきみを南の島での休暇に連れ出すべきだな。そう、六週間ぐらい。任務は無し。きちんとした食べ物と休息だけ。君に必要なのはそれだ。」

「六週間も食い物と休息だけかね。」少佐は静かに尋ねた。暖炉の薄明かりを受けて、目がきらりと光った。「他には何も?」

「そうだね、私とのことも、まあ少し。」伯爵は許可し、美しい形の唇に微笑を浮かべた。少佐は壁にもたれかかった。これは彼がくつろいでいるときの姿勢だった。「もう俺に飽きたのかと思ったぜ。」

「そんな日は永遠に来ないよ。あれ、パンがある!」


彼女の別系統の作品については、月末に紹介・感想を予定しています(やや長めになる予定・翻訳はありません)。また、"Food Fantasy"シリーズのほかの作品についても、追って翻訳を予定しています。なお、"darker Eroica death fic stories"のうちのいくつかについては、ここではリンクできませんが大変優れた翻訳がネット上で公開されていますので、ご興味のある方は探してみてください。
    

2011/07/19

【海外フィク翻訳】The Clothes Make The Man by Anne-Li

    
The Clothes Make The Man
by Anne-Li

テロリストとの交渉は神経すりへらす任務だ。かれらの狂信的献身はしばしば現実との妥協を許さない。ただ、彼らとの交渉においてひとつ言えるのは、彼らがこちらに「脱げ」と要求することはおそらくない、という点だ。 



「Nein! 絶対にだ!いかなる状況下でもだ!俺は断る!」

「じゃあ少佐、きみが自分で侵入すればいいんだよ。その、なんて言ったっけ、変な形の建物、ペンドラゴン?きみが自分でさ。私はそこにはなんの美も感じないし、美しいものののないところには侵入の価値もないからね。」

「おれはペンタゴンのなかでおまえのためにストリップをする気はないぞ!」

この手のつけられない痴れ者ときたら、そこで甘ったるいやりかたで無作法に肩をすくめ、期待で一杯の笑顔で眉を上げた!「私は言ったよ。美のないところにエロイカは現れないのさ。」

「グローリア卿…」少佐は、この気障ったらしいやつがそう呼ばれるのが大好きだと知っていた。ということはつまり、少佐にとってはこいつをそう呼んでやるぐらいならコーヒーに 砂糖を入れたほうがまだマシだという意味だった。だが今は重要な交渉の最中で、しかもそれは伯爵が文字通り決定権を持つ交渉だ。こいつに主導権を取られてはいかん。少佐は自分に言い聞かせた。彼は深呼吸した。 

「それは問題外だ。おれが同意できそうな代替案を出せ。」べつの案があれば試してみる価値が十分ある、と彼は考えた。伯爵もじっくり考えているようだった。それから少佐は、数ヶ月前に伯爵と一緒に燃える飛行機からスカイダイビングしたときの会話を思い出し、さっき怒鳴りつけたことによって伯爵がすこしでもまともなことを考えてくれるようになったかどうかかなり怪しく思った。。彼は優しくこちらを見ている青い目を見つめつつ、厳しく、しかし誠実な声で言ってみた。「グローリア卿、おれはNATOとその任務のためならたいていのことはやる。だが売春婦にはならんぞ。」

「ええと、そうだね。」伯爵もまた同じように誠実に反応してみせた。再びまばたきをして、唇をすぼめ、指を伸ばしたり曲げたりした。そして興味を覚えたとみえ、彼はさらなる検討のためにその場を離れてゆっくり歩き回ったた。

「そう…少佐。そう、ええと、私が...」少佐のところに戻って最終的にうなずく前に、ひとかたまりの金髪はふわふわ揺れながら部屋を歩き回った。「すごくいいね。それは。少佐、これならどうかな?わたしはきみがそこへ侵入するのを助ける。ええと、なんて言ったっけそこ?Pet-a-groin(股間)? もしきみが丸一日、わたしが選ぶとおりの格好をしてくれるなら。」

(ペンタゴンだ!我慢ならない馬鹿野郎め!知ってて言っとるんだろうが!おまえがおれの鼻面を引きずり回して喜んどるだけなのはわかっとる!けつを蹴っ飛ばすぞ!ほんとに蹴るぞ!だが蹴ったら蹴ったで喜ぶんだろうが!くそったれの英国人め!) 「俺は素っ裸にだけはならんぞ!」

青い目がドラマチックに輝いた。「ああっ、その手があった!すばらしいよ、きみ。ほんとに!で、契約書はどこだい?」

「Nein!」 しかし、いくらうなり声を上げたとしても、何の効果もないことが自分でわかっていた。彼はすでに交渉を始めていて、どんな方法を使ってもこの嫌味なやつを何とかすることはできないだろうということがわかっていた。「おれは気に入らんぞ!」少佐はそれでも一応抵抗しようとした。「任務中にはやらんからな!部下の前でそんなことをするわけにはいかん!その案は却下だ!」

伯爵は、いつもと同じように優雅に再び肩をすくめた。そしてこれがすばらしく大きな譲歩であるかのように言った。「後払いでもいいさ。」そして続けた。「もしきみが私を騙そうとしたなら、私は次回からの請求額を引き上げるだけだもの。そしてきみを落ち着かせる必要があるときには、『服を脱げ』って言うだけでいいのさ。」軽い脅しだったが、少なくともこのような状況下では、双方が少佐は約束を守ることを知っていた。「こういうのはどうだい?任務の後の最初の週末に、私がボンを訪れる。私たちはすばらしく居心地のいい土曜日を過ごせるよ。」

「おれのアパートメントを香水まみれにして、二度と思い出したくない記憶を残すつもりか!断る!」

伯爵はちぇっと舌打ちし、それからかすかに笑みを浮かべた。そして少佐は、自分を着せ替え人形にして遊ぼうなどと考えている男を敵に回すのが、果たして賢明なことかどうか疑わしく思った。「女の服は無しだ!それと、下品なやつもだ!」

この時点で、伯爵のはいっぱいの笑みを浮かべた。「勝者はね、少佐。勇敢で慈悲深いものなんだよ。全裸はなしにしよう。女装もだ。それから誓って言うけど、いま君が着ている服と同じ程度にはきみの素敵な肉体を隠す服を選ぶよ。きみのフラットじゃだめ?オーケー、じゃあ、私の部屋にしよう。

少佐はそれでもこのアイデアがまったく気に入らなかったが、伯爵が言ったこと以上のことが本当に起こらなければ、さほどの侮辱を受けずにすみそうだった。NATOはどうしてもヤンキーどもに知られることなくペンタゴンに侵入する必要があり、そのためには彼の側に、世界で最高の泥棒を必要としていた。「おれはおまえの部下の前で馬鹿にされるために、わざわざロンドンまでは飛ばんからな!」

「いや、私のフラットだよ。ボンの。Argelanderstraßeストリートにあるんだ。きみと私だけだよ、愛するきみ。まるでロマンチックな休暇のようだよね、それでいいかい?」

少佐は、伯爵がボンに部屋を持っていたなどとは知らなかった。彼はあきらめてため息をついた。「なんでもいい。契約成立だ。」

ペンタゴンでの任務は驚くべき順調さだった。エロイカがと少佐のの袖を引いて、「誰か来る音が聞こえた! 早く、この場をごまかすために抱き合うんだ!」の小技を使おうとしたにもかかわらず。少佐が裏をかいて部下Bを身代わりに差し出すと、伯爵は即座に声を改めて、「いや、いい。私の聞き間違いだ。」と言い直した。

土曜日の朝、成功裏に終わった窃盗の後、少佐はArgelanderstraßeストリートをジョギングしていた。4月4日はジョギングにはちょうどよい気温で、少佐は早春の緑を美しいものだと思った。

おれは緑しか着ないと主張するべきだな。彼はかなりのサイズのバックパックを背負い、自分自身を叱咤した。少佐は効果的な訓練のためにしばしばウェイトを背負って走ることにしていたが、今回の荷物の中身はこうだった。衣類の余分なセット(伯爵が用意した服がどう 考えても我慢できるものではなかった場合用)、少佐が現在読んでいる本は(タキトゥスの『同時代史(ヒストリエ)』)、書類がいくらか(仕事用 - 伯爵に、少佐が一日中のんびりできる身分だと悲しい誤解をされた場合、なんとかごまかして見せるため)。それか青か。または黒。多分白、しかし全体が白なのはだめだ。おお神よ、やつが全身ピンクやら紫やらの何かを持っている場合には...自分の考えに少佐は震え、ほとんど立ち止まりそうになった。しかし何とか持ちこたえ、ロス・リューム氏名義の家まで最後のブロックを無理やり走りこんだ。剣と薔薇の交じり合ったデザインの灰色の鉄のフェンスの向こうに、ペンキ屋が爆発したように明るく華やかな庭が見えた。

少佐は深呼吸して自分自身を叱咤し、薔薇で縁取りされたドアまで足を進め、ベルを鳴らした。内側から、さわやかで透明な声が返るのを聞いた。ドアなど無いも同然だった。彼の到着を見守っていたかのように瞬時にドアが開いた。とうか、実際待っていたのだろう。しかも空けたのは伯爵だった。時刻が朝の7時45分であることを考えて、伯爵の約束にもかかわらず少佐が予期していたような手下の誰かではなく、本人だった。少佐は、彼らが実際に二人だけであることを願っていた。彼は、誰かにそういう服を着たところを見られたくないと真剣に嫌がっていた...キラキラとかと...フリルとか。

伯爵はいっぱいの笑顔で少佐を見た。それは素晴らしく暖かみのある微笑みで、そのため少佐はいつもなるべく長い間その笑顔をみつめないようにしているのだった。暖かみで解けてしまいそうな気分になるからだ。「おれ私はシャワーを浴びるぞ」と少佐は宣言した。「着替えはそれからだ。おまえ、覗くなよ。」

少佐の素っ気ない態度は、伯爵の小癪な笑顔をさらに明るくするだけのようだった。「もちろんさ。二階に部屋があるんだ。荷物もそこに置いて来るといい。こっちだよ。」

伯爵は、階段への途中でキッチンとリビングルームの位置を教え、それから少佐に言わせればまったくそんな必要は無いのに、二階の伯爵のベッドルームの場所まで教えながら、階段を上がった。少佐のための部屋はそのすぐ隣にあった。少佐は、ベッドの上に彼のバックパックを放り投げる前にざっと周りを眺めた。"おれがシャワーを浴びている間に、着せたい服をベッドの上に出しておけ。」彼は命じた。

「準備はもうできてるよ。服を着たら、居間に降りてきてくれ。私と……したいっていうんなら別だけど。」

「ノー!けっこうだ。さっさと出て行け。」

少佐の最初の行動は、伯爵が出ていくなり、不本意にも少佐がいる部屋と伯爵の寝室との間の壁を徹底的に調べることだった。覗き見されるような可能性はなさそうだった。それから彼は部屋の残りを検査した。二度目の検査でも何も見つからず、念には念を入れた三度目の検査で、彼はなすべき検査はすべて実施し、かつなにも見つからなかったことを認めざるを得なかった。それから彼はバスルームに退避した。もちろん、その場も検査し、それからじっくりとシャワーを浴びた。伯爵の睡眠を邪魔してやれるかもという目的で早朝からやってきたのはまあいいとして、今はとにかくどうやって変態野郎の視線を避けようかと躍起になって考えていた。

とうとう馬鹿馬鹿しくなって、十分すぎるほどの風呂の時間を切り上げた。それからタオルを三枚使った。タオルは肌触りよく大きかったが、けしからんピンクの色合いがこれから起こることを予感させた。が、とりあえずサイズは充分にあり、ぐるぐるまきにして肌の露出を最小限に抑えることはできた。少佐は息を吸い込んで、ベッドの上に待っているはずの次の運命に備えた。俺はスパンコールは着んぞ。それからシースルーメッシュもだ。そんなものを着るぐらいなら自分の着替えを着る!そしてとうとう、これ以上ぐずぐずできんと考えて、少佐はバスルームを出た。

あの変態は、なんの服も用意していなかった。

あの野郎、俺が何時間もシャワーを浴びてめかし込むとでも考えてやがるのか?

この考えに少佐は気分を害した。彼はすでに、考え付く限り最悪の事態についても覚悟していた。彼はすぐにドアをロックして、彼の服装が少しでも乱れている状態で伯爵が「ついうっかり」部屋に入ってくるという可能性を防いだ。もちろんあの恥知らずの泥棒なら、数秒以内になんらかの方法でドアを開けられるのだろうが、それでもとりあえず足音を聞きつけた少佐は速やかに決定的になんらかの対処を講じられるはずだ。そ れから彼は持ってきた着替えを着込んで、上からしっかりと拳銃用のホルスターを身につけた。これであの変態がけしからん振る舞いに及んだときに、少しでも 時間を稼ぐことが出来る。ミーシャがこのたくらみを聞きつけて、部下と一緒に待ち伏せしているかもしれん…カメラ持参で…。それからかれは刑務所の服を受け取るために、看守の元に向かうべく行進を始めた。

伯爵は約束どおりリビングルームにいた。窓から差し込む光の中で、寝そべって新聞を-イギリスのゴシップ紙などではなくドイツ紙のBonner Generalanzeigerを-読んでいるところだった。少佐はわずかに認めざるを得なかった。ということは、今脇の下に挟んで持って降りてきた本のほかにも、まともな読み物があるということか。

「さあ、どこにあるんだ?」少佐はうなった。「シャワーの後で着るから準備しておけと言ったぞ!」

その暖かい、ほとんど触れられたような感覚を覚えるほどの笑顔がもう一度彼を撫でた。「だからね、いとしいきみ、準備はもうできてるんだよ。」

「何がだ!王様は裸だごっこでもしようってのか?馬鹿者!おれは素っ裸にはならんと言っただろうが!」

「そうだよね、たしかにきみは脱いでくれないし、少佐。」笑顔が非常に腹立たしかった。まったくなにもかもが気に入らなかった。。

「やめんか!さあ、お前の用意したくそったれな服はどこだ?」

あまりにもゆったりした、余裕のある笑顔だった。「もう着てるじゃないか。愛するきみ。」

「なんだと」 - 少佐は自分を見下ろして言った。いや、彼は自分で用意した着替えを身に着けていた - ダークブラウンのボトムと、きっちりアイロンの当たったぱりぱりの白いシャツと、それによく合った緑と黄色のネクタイ。彼は伯爵を見た。

チェシャ猫だってそんなににっこり笑えないだろうという微笑を浮かべ、伯爵は言った。「ダーリン、私だってきみが17世紀後半のフランス貴族みたいな格好をしてくれたら、そりゃ楽しいとは思うよ。それとか冗談にしてもメイド服とか。でもね、私の愛するきみ。きみが今着ている服が、それが本当に私が一番気に入ってる格好なのさ。」

なんだって?

「私からしてみればね、きみが一日中ここにいて、私は一日中好きなだけきみに色目を使えるんだ。すばらしいじゃないか!だから信じてほしい。きみがどんな服を着ようと、そんなこともう完全にどうだっていいんだよ!まったくもう!」



おしまい
  


2011/07/18

【海外フィク紹介】The Clothes Make The Man by Anne-Li

   
  
若いころは少佐かっこいい!一筋でしたが、歳を取るにつれて少佐の子供っぽいところと、反対に伯爵の大人なところに気づくようになってきました。少佐は永遠 に男の子な感じがします。伯爵の顔写真に落書き(ヒゲとか)を描いて、靴のまま足を載せてるカラー画もありましたね。うちの息子とやってることがかわりませ ん。

というわけで、伯爵のいたずらな大人ぶりがよく描けているお話をひとつご紹介します。"Before it happens"の佳作です。It's exactly my Dorian!って思いました。


The Clothes Make The Man
by Anne-Li


またしてもこの巻毛金髪の優雅な泥棒貴族ときたら、ペンタゴンへの侵入への報酬に、少佐にとんでもないものを請求します。それはなんと『一日少佐着せ替え人形ごっこ』。 少佐は何を着せられるのでしょう?フリル?キラキラ?17世紀のフランス貴族?メイド服?それとも、なにもなしの素っ裸???
         
先日のエントリで、 こういう一節がありました。

43. Sky - When Klaus lost the bet and thus must allow Dorian to dress him for a day, he hadn't realised that "sky clad" had been one of the options.

43. Sky - 空: 伯爵との賭けに負け、指定された服を着て一日を過ごす羽目に陥ったとき、少佐はまだ服の種類のひとつに"skyclad(*)" があることに気付いていなかった。(*直訳すると「空しか着ていない」、つまり「すっぱだか」)

というわけで、このセンテンスから生まれたショートストーリーでしょう。エロイカ番外編のコメディに本当にありそうな展開で、私は大好きです。

訳してて自分でも笑っちゃったのがここ。
我慢ならない馬鹿野郎め!知ってて言っとるんだろうが!おまえがおれの鼻面を引きずり回して喜んどるだけなのはわかっとる!けつを蹴っ飛ばすぞ!ほんとに蹴るぞ!だが蹴ったら蹴ったで喜ぶんだろうが!くそったれの英国人め!俺は素っ裸にだけはならんぞ!


お話のアップは明日です。みなさまよい夢を。


2011/07/17

勝手に少佐テーマソングに認定


It must be obvious  - Pet Shop Boys



Are you feeling all right?
  大丈夫か?
It's easy, we've been t
here before
  気楽に行こうぜ あそこには前にもいたことがある
But it feels like the flight of the Von Trapps, 
  トラップ家(*)の逃避行みたいだけどな  (*)映画「サウンド・オブ・ミュージック」
does that mean it's war?
  まるで戦争だな そうだろ
O
h no, 
  ああ、くそっ
From my head to my toes
  俺は頭のてっぺんからつま先まで
I'm in love wit
h you
  おまえにいかれてる
Do you t
hink it shows?
  周りにバレてると思うか?

We're meant to be f
riends
  俺たちは友人だよな
T
hat's what it says in the script
  台本ではそのはずだ
Is it really t
he end 
  終わっちまうのか?
if sometimes I stray just a bit?
  俺がちょっとでも踏み込んだら
Oh no, 
  うう、くそっ
It should be poetry not prose
  これは詩だ 散文的ななにかじゃなくて
I'm in love wit
h you
  俺はおまえにいかれてる
Do you think it shows?
  周りはわかってると思うか?

And everyone knows when they look at us
  そう、俺たちを見れば誰でもわかるはずだ
'Course they do, it must be obvious
  もちろんそうだろ こんなにあからさまじゃないか
I've never told you now I suppose
  おまえに言ったことはないんじゃないかな
t
hat you're the only one who doesn't know
  だからわかってないのはおまえだけ

You were different 
  初めて会ったときからおまえは違ってた
when we met in an ordinary way
  普通の出会いだったのに
I didn't intend to interrupt your own shadow play
  おまえの影絵芝居をやめさせたくない
O
h no, 
  ああ、だめだ
I won't upset the status quo
  俺は現状を動かしたくないんだ
I'm in love with you
  俺はおまえにいかれてる
Do you think it shows?
  周りは知ってるんだろうか?

And everyone knows w
hen they look at us
  見たやつはだれだって知ってるさ
'Course t
hey do, it must be obvious
  あたりまえだろ こんなに明白なのに
You've never asked me and I'm surprised
  おまえは俺に聞かないよな それが驚きなんだ
'Cause you're t
he only one who hasn't tried
  おまえだけだ それを聞いてこないのは
 
And everyone knows when they look at us
  見ればだれだってわかるさ
'Course t
hey do, it must be obvious
  あたりまえだろ 一目でわかるさ
I've never told you now I suppose
  おまえに言ったことはないんじゃないかな
t
hat you're the only one who doesn't know
  だからわかってないのはおまえだけ

A
h, when they look at us
  ああ だからみんなわかってる
It must be obvious
  こんなにはっきりしてる
Oooh
   うう…



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まあ、ニールの声はちょっと透明すぎて少佐にはアレなんですけど…

2011/07/16

伯爵に似た人

  
ほかの漫画で伯爵に似た人を見たことがありますか?私がちょっと似てるなあと思うのは:

- ジョゼ 「シャンペン・シャワー」(かわみなみ)
- めりた 「黒のもんもん組」(猫十字社)

の、二人です。見た目だけじゃなくて、感覚が常人とは違うところ。伯爵ごめんなさい。愛してます。

2011/07/15

【海外フィク翻訳】Good Old-Fashioned by Heather Sparrows

    

Good Old-Fashioned
by Heather Sparrows


   
  
クラウス・フォン・デム・エーベルバッハは、ケルン・ボン空港第一ターミナルのデジタルディスプレイと自分の腕時計とを比べた。スケジュールどおりであればあと5分。しかし多分遅れるだろう。ロンドンのヒースロー空港はセキュリティ強化中だ。タバコ一本分の時間はある。彼は外に出て、先ほど買った新聞を読みなから一服した。

一面の記事はこうだった。「喫煙者には500ユーロの罰金」

(全く、スモーカー叩きが最近の流行か。世界のあちこちで紛争がやまん。旅客機が摩天楼に突っ込む。テロとその後の戦争で数千人が死ぬ。それから大気汚染だ。原因は車と飛行機と化学工場と原子力発電所と、その他の有象無象・・・。こんなご時世で、煙草呑みだけが悪魔の手先みたいに扱われとる。それとも俺たちはどっかでやり直さなきゃならんのかね。もちろんだとも。俺に言わせりゃ、自分らの偽善のはてめえのケツにでも突っ込んどけ、だ。)

彼は新聞をばさばさと折りたたんだ。それからもう一度腕時計を確かめて、到着ホールに戻った。到着はもちろん遅れていた。そして、やはり、クラウスは待つのが苦手だった。彼は檻の中のレオパードのように、せわしなく到着ホールを動き回った。

(やつはどんなふうに変わっとるんだ?見ればすぐわかるのか・・・?)

    * * *

「伯爵、本当にそうするつもりなんですか?」

ドリアンは心の中でため息をついた。

「ジェームズ君、きみはどれについて言いたいのかな?」と、すこし苛立ちをにじませながら、彼は問い返した。「ターナーを手放すこと?マチスを買うこと?グロリア城をナショナル・トラストに売却すること?それともボンへ飛ぶこと?全部きみが書類を用意してくれたんじゃないか。それを『本当にそうするんですか?』だなんて。きみに答えておくよ。答えはイエスだ。私は君がいま言ったすべての項目を、実行するつもりなんだよ。」

むくれたジェームズは、それでも可愛らしくみえるな、と伯爵は思った。彼はある意味まだ、この小柄な経理士に弱いところがあった。とはいえ、ジェームズとボーナムはもう15年もお互いをパートナーにしているのだが。いや、もっと以前からだっただろうか?

「伯爵はぼくの言う意味をよく分かっていらっしゃるはずです。」「勘弁してくれたまえ。ドイツは地の果てじゃないんだよ。!」大きな青い片目が、伯爵をなにか言いたげに見ていた。それから、ジェームズは大きく息を吐いた。「もう長い間、そう、僕の記憶に誤りがなければ、もう20 年になりますよね。伯爵、あなたはドイツを伝染病かなにかのように注意深く避けていらっしゃった。そして今また突然、また物好きにも、そんな方法でボンに飛ぼうとしている。それもあの恐ろしい少佐に会うために!」

ドリアンは机の上のファイルを開き、ペンをとって経理士が用意してくれた書類を読み始めた。(もちろん、彼はもう少佐じゃないだろう。だが今でも恐ろしいかどうかは?それはもうすぐ分かる・・・) 「そう。全くその通りだよ。」と彼は答えた。「ではジェームズ君。ジョージを呼んで、10分以内に車を準備させてくれるかね?」「もちろん仰せのままに、伯爵。」ジェームズは短く答え、壁に埋め込まれたインターコムへ向かった。

「ジョージ、いるかい?半時間後にロールスロイスだ。いいね?」

    * * *

(ブリティッシュ・エアウェイズ655便、ロンドン・ヒースロー発。本来の到着時刻16:30が、最新の状況では16:45到着予定、17:00にレーンに着く。やっとだ。なんだっていったいヤツは、今になって、今・・・20年?・・・もたった今になって、俺の顔を見にくるんだ?部長よ、天にて安らぎあれ。あんたは正しかった。俺が結婚を正式に公開して以来、あの目障りな気障は俺の人生から消えた。俺はそれですっかり楽になれると・・・。馬鹿野郎が。遅すぎるんだ。俺は結局、あの野郎を忘れることができなかった。)

ドリアンは上着と荷物を受け取り、飛行機を降りる乗客の列に混じってフライトアテンダントたちに会釈を返した。空港の通路を歩いていると、何人かの乗客が彼を追い越した。多分、彼らの心はすでに駐車場の車かシャトルバスか、もしかすると出迎えに来てくれている誰か愛する人のもとに向かっているのだろう。そのとき突然、彼は少佐が、もちろんすでに少佐ではないはずのクラウスが、自分に会うことなどないのではないかという気がした。ジェームズが口にした疑いが彼を捉えた。これは結局のところ、馬鹿馬鹿しい思いつきに過ぎなかったのだろうか?

『彼はあなたにに会うことを承知した。彼はあなたの知らせに返事をよこして、会うと言った。あの人はは約束を守る人間でしょう。でも万が一、あなたが彼の銃口を覗き込む羽目になって、インターポールに引き渡されそうになったとしたら?』

(なんて皮肉な宿命だろう。そう、もし彼に銃を向けられたら、それはまるで昔のままだ。彼は今でも私の心を蕩かす魅惑的な野獣のままだろうか?ああ、トビーが眉を上げて、メロドラマはやめろというのが聞こえるようだ。昨夜はトビーの夢を見た。トビーはこの馬鹿げた思い付きを実行すべきだといった。そうすべきだ、むしろそうしなければならないと。但し、思うとおりの結果が出なくても、文句は別のところへ持っていきたまえ、だとさ。思うとおりの結果ってなんだろう? 自分でも分からないよ。)

(もしトビーがいたら、私は少佐には連絡を取らなかっただろう…。少佐はまだあの女性と結婚しているんだろうか?彼女に私の話をしたはずがない。私はしたさ。私の少佐への情熱については、トビーもいずれは私の部下たちから聞くことになっただろうから。それにトビーは私の信用に値する人間だった。無遠慮にも私にこう言ったことがあるもの。『君が僕と暮らしているのは、僕の見てくれやこの魅力的な性格のためじゃないのはわかっている。だが君自身が僕を選んだんだ。そしてね、僕は誰かと比べられるのは我慢ならない。もし君が僕のいないところで誰かと逢うというなら、僕は今すぐに席を立つよ。僕は誰にも盲目的に夢中にはならない。たとえそれがお綺麗なグロリア卿だとしても。』トビーはそういう男だった。…そして少佐は?老いぼれて太った退屈な男になっているのだろうか?まさかクラウスが。ばかな。) ドリアンは自分の杞憂を少し笑った。

機内持ち込みの手荷物しか持っていなかったため、彼はバゲージクレームを素通りして税関へ向かった。そしてパスポートを、彼の本物のパスポートを提示しながら、自分がなんと「まとも」になったのだろうと思わざるを得なかった。素晴らしい。それから思い出にふけった。それとも48歳で懐旧とは、この種の楽しみには早すぎる年齢だろうか?

(洞察が少し遅いよ、ドリアン。)

彼は税関を抜けて、到着ホールへと足を踏み出した。

    * * *

クラウスは、乗客が曇りガラスのドアを抜けて税関から出てくるのを近くでじっと見つめながら、背の高い、恐らくはほっそりした、壮年の貴族的な風貌の紳士を探していた。二日後にボンで会おうという短い手紙に、当たり前のように応えた自分を思い出しながら。

(おれはあんな手紙は無視すべきだった。くず籠にぶち込むんだった。あのくそったれの大馬鹿野郎ときたら、せめて最近撮った写真を入れておくぐらいのことはできんのか。でないと分からんじゃないか!二日前にそう言っとくべきだったぞエーベルバッハ・・・)

自分自身に毒づいたその瞬間、写真は不要だったことがすぐ分かった。「気障ったらしいやつ」が自動ドアから出てきた瞬間、クラウスは見まごうことなく彼をとらえた。その瞬間はまるでミーシャに一発食らったような衝撃だった。もっとも、ミーシャはすでにこの世にいないはずなのだが・・・

グロリア伯爵はそのままだった。背の高い、かすかに日焼けしたその男は、若々しくスレンダーで、同時に筋肉質でもあったし、周囲の賞賛のまなざしを集めていることも変わらなかった。彼は髪を若いころより短くしていたが、それでも輝くオーラが首筋を取り巻いているのは変わらなかった。カジュアルな格好で、ジーンズは若いときのようなぴったりしたものではなく、足元は青いローファーだった。薄い上質の麻のシャツを着て、オフホワイトのコートを羽織っていた。

ドリアンは出口を見た。右の大きな窓の近くに立っている、長身で足の長い、肩幅のがっしりとした体型の男が彼の目を捉えた。その男は窓から離れて、まっすぐドリアンの方に向かってきた。伯爵は息をとめた。クラウスは今でも髪を長くしていて、それを後ろでひとつにまとめていた。20年前に漆黒だったその髪はほとんど灰色に変わっていたが、その色はクラウスの鋭い、日焼けした風貌をさらに際立たせていた。偉大なる将軍の風貌 - 高貴で、大胆で、そしてどうしようもなく魅力的だった。

(エメラルドグリーンの瞳。覚えている通りの。でもあんなに悲しそうなのは見たことがない。でも彼にはいまでもうっとりさせられる何かがある。)

「伯爵?」(素敵な声。トビーの声ほど優雅じゃない。でも似ている・・・ ) 
「少佐?」 ドリアンはためらいがちに呼んだ。

「正式な肩書きは『元少将』だ。」 クラウスはかすかな皮肉を声ににじませて答えた。「だが『少佐』でいい。」 (じゃあ、退役したんだ。変な感じだ、鉄のクラウスが引退だなんて・・・) 彼らは握手を交わした。鋭い緑の目がドリアンを釘付けにした。(銀髪と、目の周りの皺のせいで、ますます味のある顔になってるみたいだ・・・)

ドリアンは大きく息を吸った。「会ってくれて、ありがとう。」「俺は約束は守る。」クラウスはぶっきらぼうに答えた。「こっちだ。」彼は身を翻して出口へ向かった。、ドリアンは荷物を持ち、微笑をこらえたような顔で彼に続いた。

(昔の少佐のままだ・・・)


* * *


10分後、彼らはクラウスの車で高速道路を走っていた。少佐は握手と挨拶以来、黙り込んだままだった。ドリアンは少し不安になった。(もうこれ以上話すことがないってことだろうか?) 彼は考えた。(言いたいことはたくさんあるのに。聞きたい事だってたくさん-きっと彼は『お前には関係ない』って言うんだろうけど。)

“Hast du keinen Blinker, du Armleuchter?!” 少佐は突然怒鳴った。 “Dukannst gleich waserleben!” ドリアンはぱっと微笑んだ。少佐が他の車のドライバーをドイツ語で罵るのを聞いて、気が楽になった。少佐は、変わっていない。

「まったくひどいもんだ。」クラウスは文句を言った. 俺の前でウィンカーもなく車線変更なんぞしやがって!馬鹿どもめが!」「いまでもやっぱりメルセデスなんだね。」ドリアンは言ってみた。少佐は鼻を鳴らした。「最近は何でも電子部品ときたもんだ。それがしょっちゅうトラブルを起こしやがる。何週間か前に、助手席のエアバッグの表示に故障を知らせる赤いランプが付くようになった。今の車は乗り手では修理できない部分が多すぎる。修理に出したら、エアバッグには当然何の問題もなくて、赤ランプを制御するくそったれのコンピューターチップがいかれていやがった。それで500ユーロだぞ!300ポンドより高くついたんだ!」

「モダン・テクノロジーってやつだよ。」ドリアンはうなずいた。「もっと教えて欲しいよ。最近のセキュリティシステムってのは・・」少佐は彼をを遮った。「おまえ、まだ泥棒をやっとるのか?」 ドリアンは静かに頭を振った。「エロイカは引退したのさ、ダー・・・いや、少佐。48歳にもなって、壁を登ったり屋根を跳んだりするのは、二十代ののころより大仕事なんだよ。. 私は素直に負けを認めたのさ。」 今でもNATOの依頼で小さな仕事を請け負うことがあるのは黙っていた。

エメラルドの瞳が、ドリアンを横目でちらりと見た。「それで、何で食ってるんだ?」「美術商さ、ダーリン。いや失敬、少佐。」「ふん」クラウスは伯爵が口を滑らせたのを見逃してやった。 (妙なやつだ。) 彼は思った。(20年なんぞとても経ってないような様子で澄ましてやがる。恐ろしいほどだ。)

ドリアンは息を吸い込んだ。「えーと、それで、どこへ行くんだい?」「郊外のトルコ系レストランだ。腹が減っとるだろう?」「少しね。」(ほんのところ、何か食べる気になるとは思えないな・・・。20年なんか経ってないみたいだ。でもそれが事実だってことは分かっている。そしてそれをとやかくは言いたくない。)

「トルコ系レストラン?きみ、アジア料理なんか食べるようになったのかい?」少佐はまたふん、と鼻を鳴らした。「タバコをやめて、揚げたイモをほどほどにしろと医者が言いやがる。」言いながら、次の一本に火をつけた。

「なるほどね。」と伯爵は言った。

* * *

オリエンタルレストランは、こじんまりして落ち着いた、これ見よがしではない雰囲気の店で、ボンの気取らない側面をかいま見せてくれる場所だった。親しみやすいサービスとともに、、メニューにはクスクスや、ファラフェル(粉にした練った豆類の揚げ物)、さまざまな味付けの野菜、サラダ、パンがあり、子羊の骨付き肉がすばらしかった。ドリアンは食欲が戻ってくるのを感じた。

「さあ、話してくれ。」食後のトルコ式コーヒーを前にして、クラウスは始めた。「なぜ20年もたった今になって、連絡をよこした?」ドリアンは、向かいに座っている男の見慣れた、そして見慣れない顔をまっすぐ見つめた。

「きみの結婚の話を聞いたとき、とても悲しくて、とても・・・傷ついた。」彼は答え、そして反抗的に付け加えた。「でももし君がエロイカが厚かましくも結婚を邪魔だてすると考えていたとしたら、私にはそんな気は全くなかったよ。」 「おまえがあっさり諦めたのは、正直意外だったな。」クラウスは認めた。

「交通事故にあったんだ。起き上がれるようになるまで、たっぷり半年かかったよ。」「あんな見てくれだけのイタリア製のくず鉄に乗ってりゃ、遅かれ早かれそうなるぞって俺は言ってただろう!」  クラウスは文句を言ったが,が、ドリアンは彼の目に気遣いを読み取った。

「そうだね。誰にも怪我させなかったのをありがたく思うよ。それに私も完全に回復できたんだし。」ドリアンは続けた。「体が全快した後でも、心はまだ傷ついていて、悲くてたまらなかった。でも、だからといってこれ以上きみを追い掛け回すのは愚かだと自分でも分かっていた。それにどちらにしろ、もう遅すぎたんだ。きみが結婚して、そのときにはもう半年がたっていた。だから君を忘れることにしたんだ。」彼は肩をすくめた。「最初のうちはうまくいかなかったよ。でも、数年後にトビアスに出会えたのさ。」

「トビアス?」

ドリアンは二枚の写真を取り出した。一枚には、肩まで落ちる脂染みた黒髪に縁取られた、あまり健康的ではではない顔色の三十代後半の男性が写っていた。鷲鼻で、暗い目がこちらを見ていた。口元は厳しく結ばれていた。「私は、背の高い黒髪に惹かれるんだ。」 ドリアンは付け加えた。

「頭の悪くなさそうなやつだな。」 クラウスは言った。

次の写真では、その男はドリアンと一緒に写っていた。写真の男は背が高く、針金のように痩せていて、上から下まで黒ずくめの格好だった。髪がずっとよくなっていた。きれいに洗って、鎖骨の長さで切りそろえられていた。彼らは庭園のベンチに座って、お互いを見て微笑みあっていた。伯爵は髪を短くしていて、明るいグレーのスーツに身を包んだ姿はは、完璧な貴族的な英国のエレガンスを絵にしたようだった。

「トビアスは美男子じゃなかったよ。」と、ドリアンは言った。「ひどい毒舌家でだったし。角のある性格だったけど、勇敢で忠実で率直でもあった。それに、すばらしい声の持ち主だったんだよ。ケンブリッジで化学の講座を持っていて、学生たちは聞き惚れていたさ。」

(その男はどうやらこいつのわがまま放題の手綱を引いて、地上に引き止めておくのに成功したらしいな。) クラウスは鋭い嫉妬から、わざと粗野な口調で言い放った。「連れて来ればよかったのに。お前はもうっちょっと脳みそのあるやつを周りに置くべきだと、俺はずっと思っとったぞ。」彼は、ドリアンの空色の瞳が、翳ったように暗くなるのに気がついた。彼が悲しいときにいつもそうだったように。

「残念ながらそれは無理なんだよ。彼は二年前に死んだんだ。交通事故で。」

(くそ!おまえは信じられないぐらい下手糞な間抜けだぞ、エーベルバッハ。こいつは恋人を語るのにずっと過去形を使ってたじゃないか。気が付いていただろう。)

「悪いことを言った。すまん。」ドリアンは肩をすくめた。「でも、一緒にいられた間は幸せだった。美しい十五年間だったよ。」「それはなによりだ。」クラウスはワイングラスを一気に干して、舌に残るコーヒーの味を洗い流した。グラスの足をもてあそびながら、ドリアンはすこしためらった。「奥さんには、今日のことをどう言ったんだい?」

「妻には去年先立たれた。」(しまった!) 慰めをうまく言葉にできずに、ドリアンはクラウスの手を包んだ。少佐はそれを払いのけなかった。

「スザンナは善良な妻で、勇敢な女性だった。」

その簡潔な言葉が、ドリアンの胸を刺した。彼は愛するものを失った痛みをクラウスと共有しつつ、同時に嫉妬を感じていた。長い間、彼は子供じみた願望にとらわれていた。少佐は意地悪で結婚したんだ。私への意地悪のために。後になって彼は思い直した。少佐が私のことを忘れたのは、彼の妻のせいではなく、エーベルバッハ家の当主としての責務を果たすためだ。だが今ドリアンは、スザンナという女性が、クラウスにとって大きな意味をもっていたことをはっきりと理解した。彼女はクラウスにとって、自慢の息子が一人前の家庭持ちの男となったと老父を満足させるため以上の、大切な存在だった。

悲しみと嫉妬にもかかわらず、ドリアンは微笑んでみせた。「勇敢じゃなきゃやってけないよ。きみの妻なんだから。」

「俺はほとんど家にいなかった。」クラウスは思い出しつつ言った。「家族と過ごす時間はほとんどなかった。」彼の言う「家族」という単語に、ドリアンはひっかかるものがあった。「それって、きみの家族のこと?きみ、子供がいるの?」(その可能性を考えるべきだった。伝統あるエーベルバッハ家がそれを望まないずがない・・・)

「息子だ。ベルンハルドというんだ。」少佐はうなずいた。「今19歳で、市民プールの監視員だ。庭園設計の道に進みたがっとる。」

少佐が彼の息子について、単なる名前や年齢以上のことを紹介してくれたことは、ドリアンには嬉しかった。少佐は写真を取り出して伯爵に見せた。そこには少佐と、背の高いブロンドの女性と、クラウスの若いころにそっくりな青年がいた。伯爵の胸が刺すように痛んだ。ベルンハルドは痩せぎすだったが、明らかに父親のがっちりした体格と長い脚、そして鋭い容貌を引き継いでいた。ブロンドとダークブルーの瞳は母から受け継いだものだった。クラウスの妻、スザンナはかつてはさぞかし美しいかっただろうと思える容姿で、かっちりとした、知性にあふれた顔立ちだった。

ドリアンは顔を上げた。クラウスは窓の外を見ていたが、外は真っ暗で何も見えず、ただ窓に映るクラウス自身の顔が浮かんでいるだけだった。

「癌の進行が早すぎたんだ。医者ができることはほとんどなかった。」彼は息を継ぎ、少し黙り込んだ。「遅すぎる感謝と後悔でいっぱいになったよ。俺は良き夫でも良き父親でなかった。本来ならはそうあらねばならんはずだったのに。スザンナは、あらゆる問題にひとりで対処せにゃならんかった。ベルンハルドが小さいころも、それからヤツが…ドラッグにはまったときも。だが息子については、俺は望んだより幸運な結果を得たぞ。」

「ドラッグから立ち直ったんだね?」「それだけじゃない。俺は息子と、どういうわけだか友人のような関係を築くことができたんだ。」クラウスは笑みを浮かべた。それは、ドリアンが知っていた男にしては妙に悲しげな、何故か痛ましい微笑だった。だがその微笑みはドリアンの心を素直に打った。

彼は写真をじっと見つめた。ベルンハルド・フォン・デム・エーベルバッハの容貌は、父親よりも温和に見えたが、同時にいかついあごと意志の強そうな口元は、この若者の恐れ気ない覇気を感じさせた。父親の言うことを素直に聞く顔ではない。頑固なエーベルバッハの血がそこにもあった。この息子を育てることは、『鉄のクラウス』にとって手ごわいレッスンだったのは確実だった。なにしろ少佐は、彼の部下が争って上司の命令に従うのに慣れていたはずだったから。(少佐の部下たちは、いつも「アラスカ行きだ!」って一方的に怒鳴られながら仕事をしていたな・・・)

「なにと笑っとるんだ?」少佐の声がドリアンを回想から引き戻した。「いや、ただ、君の息子くんはきみの若いころとおんなじぐらい気かん坊なんだろうなと思ってさ。」クラウスは鼻を鳴らしたが、ドリアンの意見に論評は差し控えた。

「そう、私には子供がいない。だからといってトビアスは喜んで私のきまぐれを我慢してくれる男でもなかったな。」ドリアンはトビアスとの付き合い始めの頃のエピソードを語りだした。待ち合わせに一時間遅れたら、すでにベッドで熟睡しているトビーを見つけたこと。決して待つ方ではなかったこと、欲しければ欲しいときに、さっさと押さえつけてくるタイプだったこと・・・

「おおかたそんなとこだろうと思ったぞ。」クラウスは言った。「さあ、懐かしの連中の話もしないか?あのドケチ虫はどうした?ヒゲだるまはどうだ?ジョーンズは?マフィアのボスはどうした?」「きみ、あだ名まで覚えてるんだね。」ドリアンは笑った。「そう、ジェームズはいまでも私の有能な計理士だよ。いまはボーナムと付き合ってるんだ。」

「『はくしゃくぅぅぅ~~~~!』は無しか?」と、少佐は皮肉った。ドリアンは微笑んだ。「トビーがよくそう叫ばせていたね。ジェームズにきみより怖い存在があるとすれば、それはトビーだったさ。彼の前ではみんな、蛇ににらまれた蛙のようようなもんだったよ。」

(そいつは全くたいした男だったようだな。) クラウスは思った。(一度会ってみたかったぜ。) 写真の陰気な男が、伯爵の取り巻きどもを猛然と蹴散らしているところを想像し、クラウスは一種の敬意すら覚えた。この気まぐれな蝶々野郎と15年も暮らし、言うことをきかん浮かれ頭に見たとおり多少の分別を教え込んだようだ。それも、ずいぶんとまともな方法で。こいつは敬礼もんだぜ。彼は同時に、ドケチ虫の忠誠心にも驚いていた。ボーナムはいい。しかしクラウスは、正直なところジェームズはいずれ伯爵を離れるのではないかと疑っていた。

「ジェームズくんは今でも当家の重要なメンバーだよ。ああ、イタリアのゴッドファーザー?あの古い友人は、なんと私の三番目の姉と結婚したのさ。信じられるかい?」少佐の目が点になった。ボロボロンテはゲイではなかったが、愛人には常に伯爵に似た女を選んでいた。金髪で、ブロンドの・・・。だとすれば、ドリアンの姉のうちから一人を選ぶというのは非常に論理的な解決だった。

「一番上の息子はジャンバッツアというんだ。今5歳だよ。下の姫君はドリアーネ。私が名付け親で、3歳さ。」「次に会うときは俺がよろしくと言っていたと伝えてくれ。」「そうするよ。それから、バクチアルの父親のほうはもう90歳を過ぎたが健在だ。息子には今三人の妻がいて、家族の切り盛りに忙しそうだ。」「ふん。」 「私のほうはこんなところかな。で、そっちはどうだい?部下の諸君は、いまはどうしてるんだ?」

クラウスは新しいタバコに火をつけた。

「俺のチームは去年の退役のときに解散した。ほとんどの部下どもはNATO情報部の別部門に移ったな。おまえが知っとるやつといえば―、AとGとZは自分のチームを率いとる。それからBは退役してアラスカに移住したぞ。」 ドリアンは大笑いした。いい声だ、とクラウスは思った。

「からかってるんだろう?少佐!」「いやいや。Bはアンカレッジからきた女と一緒になったんだ。お互い一目ぼれだったらしいぞ。」「そりゃ素敵な話だ。」ドリアンは、丸ぽちゃでカーリーヘアの男の幸せを祈った。「それで、Gくんが自分のチームを持ってるって?」彼は突然、クラウスの上司があの女装癖のある若い諜報部員をごひいきにしていたことを思い出した。「それって、あの部長が…」

クラウスは肩をすくめた。「部長は三年前に亡くなったよ。俺がGを推薦したんだ。あいつはあいつなりのやり方で、極めて有能だからな。」「君が推薦したとはね。それを聞いて嬉しいよ。」 ドリアンは救われたような顔をした。

「ミーシャも死んだよ。」少佐は続けた。「あいつの死の少し前に、会いに行ったのさ。娘さんはボリショイ・バレーで活躍しているぞ。エカテリーナ・ミーシャイロワナ・アンドロポワという名だ。」「ちょっと待ってくれ、あの世界的なプリマがミーシャの娘だって?信じられないよ!」「俺だって信じられないさ。だが事実だ。ほかには、そうだな。何ヶ月か前に、ロンドンでロレンスの野郎と出くわしたな。やつはイングランドの郊外で悠々の引退生活だ。半分の歳の若い娘と暮らしてるとさ。それでだ、伯爵。俺の質問にはまだ答えとらん。なんで今になって俺に会いに来た?」

ロレンスを思い出して浮かべていた微笑は、すぐに消えた。(彼が尋問の名手だってことを、よく覚えておかなくちゃ。)

ドリアンは自分の指を見つめた。そして、不躾なほど正直に答えることにした。

「ちょっと思い付いただけさ。たぶん私は、きみが老いぼれて太った禿げ頭―きみの部長みたいな―あんなのになってるところを確認したかったんだよ。そしたらきみを手に入れられなかったことをよかったと思えるから。そう、私は思い出に幕を引きたかったのさ。それで、少佐?君はどうして僕に会う気になったんだい?」

クラウスの目がじろりとドリアンを睨みつけた。虫の好かない上司と比較されて、明らかに気分を害していた。その憤慨はクラウスをとても人間くさく見せていて―、ドリアンは、自分がもういちど恋に落ちたのを感じた。

「俺も同じ理由だろうよ。」 クラウスは手を振って勘定を頼んだ。

* * *

ドリアンの抗議にもかかわらず、クラウスが支払った。そして彼らはレストランを後にした。「少し歩こう。」外に出て、クラウスは言った。「川べりへ出る近道があるんだ。」外は暗く、冷たい霧雨が忍び寄っていた。 ドリアンは大またで歩く少佐と肩を並べた。しばらくの間、二人とも何も話さなかった。

クラウスは新しいタバコに火をつけ、隣を歩いている男を横目で見た。目障りでちゃらちゃらしたやつ。初めて会ったときから、大昔の画家だか作家だかのくだらんおしゃべりで俺をいらいらさせやがって。あの綺麗な手を汚すのが怖かった。手入れの行き届いた爪を折るのが。芸術品のように渦巻いた黄金の髪が、汗をかいてまるでモップみたいに広がるのが。目も当てられない銃音痴。にもかかわらず、事態が最悪のときですら機知に富んで手ごわいやつ。ナイフの達人。完璧なプロフェッショナル-やつの本職、泥棒において。そして魅力的な、くそったれなほどに魅力的な・・・。

そう、あの頃。深く隠していた欲望が頭をもたげ。次第に押さえつけられなくなった。欲望は次第に強固なものとなり、もはやそれ以上耐えられそうになかった。だから、無理やり終わらせざるを得なかったのだ―愚かにも女性の助けを借りて。いや、それでも彼は公平であろうとした。結婚前、彼はスザンナに、ドリアンへの欲望を告白した。だから、彼女は婚約を破棄することも出来たはずだ。クラウスは彼女に、伯爵を忘れたいという願いを語った。スザンナはクラウスが考えていたより、ずっと聡明な女性だった。彼女は最初から知っていたのだ、クラウスが彼を忘れることは決してないということを。そしてその上で、クラウスの秘密を守り、彼を責めることなく結婚を受け入れた。まさにそれゆえに、クラウスは彼女を愛し始めたのだった。女性を愛する可能性の最大限において。

(さあ、エーベルバッハ、この老いぼれの大馬鹿野郎、おまえは今日、蛮勇を奮って自分に正直になれるかね?)

ドリアンは自分自身の物思いに沈んでいた。(最悪だ。ここへきたのは最悪の思い付きだった。私は少佐がすっかり変わってくれていることを願っていた。そしたらあっさりこう言うんだ。『ああ、きみにまた会えて嬉しかったよ、元少将、だっけかな?ではまた。』でも…。もちろん彼はそのままじゃなかった。それは私だって。彼が息子持ちだなんて、なんてこと!私が知っていた鉄のクラウスは、世界中の邪悪と戦っていた。私はエロイカで、この世界は私の遊び場のはずだった。そう、ゆっくりと着実に、そうじゃないってことはわかってきたさ。私は欲しいものをすべて手に入れたわけではなかった…。鉄のクラウスは私生活でも数え切れない戦いを経て、鋼鉄になったんだ。今の彼は悲しげでシニカルにさえ見える。彼の努力をもってしても、この世界はよくはならなかった。この歳でそんなことを信じるのはおめでたすぎるもの。それでも私は、鉄のクラウスが敗北したとは思わない。私は彼がそうであることを願い、そうではないこを願い…。私は幕を下ろしたかったのに、すべてがもう一度始まってしまったようにさえ思える…。)

「ひょっとして…」クラウスは突然思いついて声に出した。「おまえ、ひょっとしていきなり俺に会いたがったのは…」彼が何を言いたいのか、ドリアンにはすぐ分かった。少佐のように数え切れない死に直面した人間でも、歳をとればものごとを別の視点から見るようになる。彼は自分の恐れを口にしたのだ。

「もしかすると、それが私がきみに会いたくなった理由のひとつかもしれないね。私は思いついたのさ。きみが病気だったりしたらどうしよう?それが死に至るような病だったとしたら?」 「俺も今おなじことを考えたさ。」クラウスはぞんざいに認めた。「ミーシャが俺をモスクワに招いたことを考えるとな。このことを考えると、俺は行ってよかったと思っている。それはさておき、俺は健康そのものだ。」

「それはよかった。私もさ。」 ドリアンは言った。「クラウス、私は耐えられないよ、もしきみが…」

クラウスは出し抜けに立ち止まり、彼に向き直った。

「ちがうと言っただろう!」彼は鋭くくり返した。「だがな、俺が愚かにもお前に会うと答えたのには、別の理由があるんだ。俺はな、家庭をもち、父親になっても、お前のことを考え続けていたんだ!くそっ、俺は忘れようとした。忘れようとして、どうしても忘れられなかったんだ!」そう言うなり、クラウスは彼らの間の距離を縮めた。彼が荒々しく力強い抱擁に伯爵を引き入れて唇を奪ったとき、その指は痛々しいほどにドリアンの肩に食い込んでいた。

「少佐、クラウス…」 彼は圧倒され、恐れすら感じたが、やがて抵抗をやめて抱擁に降伏し、口づけに応えた。

(あの歳月を経て…こんな…)

それは一瞬のようにも永遠のようにも思えた。彼らはお互いを抱きしめあい、霧雨が本降りになるのにも気づかないまま立ち尽くした。やがてクラウスは唇を離した。ドリアンはクラウスの目に激しい決断が浮かぶ前に、彼の表情に怒りにも似た狼狽の色をかいま見た。

「雨だ。」

彼らは小走りに車に戻った。クラウスは濡れそぼった路地から車を出し、高速へ向かった。ドリアンはボン中心部のブリストルに部屋をとっていたが、クラウスは高速を下りて市の南部へ向かった。

「俺の家へ行くぞ。」

彼らは静かな奥まった通りにある、小さな19世紀末風の建物で車を降りた。クラウスは、フラットの一階にドリアンを招きいれた。少佐の簡素な好みの通りの、こじんまりした居心地のいい場所だと、ドリアンは思った。彼は革張りの椅子と、本棚いっぱいの書籍と、重厚なオークの机を見て取った。それから彼は別の部屋に引きずり込まれた。クラウス―『彼の』少佐―しかいない部屋に。肩にかかる灰色の髪と、エメラルドの眼が彼をはっきりと求めていた。力強い手が、初めはためらいがちに、それから次第に明確な欲望を持ちはじめた。激しく無骨な、しかし真摯な口づけが幾度となく浴びせられた。二十年前には垣間見たことしかなかった、だが幾度となく夢に現れ、そして欲望の対象としたその肉体を、ドリアンはついに得た。それは若き戦士の肉体ではなかったかもしれないが、壮年期の闘士としての理想であり...、かつて夢に見たとおり、すみずみまでが美しかった。そしてクラウスの目には驚きが浮かんだ―自分がドリアンに最後まで導かれてしまったことに。驚きの色はやがて、悦ばしげな、ほとんど優しいといってよいほどの表情になった―お返しにドリアンの高まりをを満たしてやったときに。それから彼らは寄り添いあって囁き合い、うたたねをし、再び目を覚まして双方を求め…、慎み深く再びお互いを絶頂へと導き合った。クラウスはくつろいでいて幸せそうに見えた。それは、ドリアンが今まで見たことのない姿だった。

「グローリア卿、おまえが欲しい。」彼は言った。「そのために必要なあらゆる時間をかけよう。」

ドリアンは異議をとなえなかった。

* * *

翌朝、クラウスは目覚めとともに誰かが隣に眠っていることに気が付いた。。それは珍しいことだった。結婚生活を通して、彼が妻とベッドを共にすることはほとんどなかった。ましてや他の誰と…

彼はもちろんすぐに昨夜を思い出した。ああ。もはや三十代ではないというのは喜ばしい一面もある。ベッドから跳び上がる必要もなければ、大馬鹿者の変態野郎と怒鳴る必要もなかった。さらにいえば、すぐに起きて何かする必要もなかった。彼は黄金の巻毛の塊と、ほっそりした体が彼の毛布を独占しているのを見つめた。暑さ寒さは訓練の問題だが、それでもクラウスは背中に隙間風を感じた。ということは、これは原則の問題だ。クラウスは断固として毛布を引っ張った。ドリアンは抗議でうめいたが、毛布を取り上げられてもとうとう目覚めなかった。

「うーん、早すぎるよ、ダーリン。」彼はくぐもった声で不平を漏らした。クラウスは毛布を脚にかけ、ドリアンにも被せてやった。しかし伯爵ときたら今度は毛布を蹴っ飛ばしてしまった。「おまえは何が欲しいのか自分でわかっとらんな。」クラウスはそっと言った。ドリアンは寝返りをうって背中を向けた。クラウスは彼のほっそりした下半身のカーブや、長い足、幅のある肩を見つめた。

(この老いぼれの馬鹿者め、この豪勢な裸の横で目覚めたときには、おまえは56歳になっちまってるという寸法だ。とはいえ、今のおまえにはこれを落ち着いて眺めていられるという利点がある。いますぐこいつをひいひい言わせようってな衝動ぬきでな・・・)

彼は体を折ってドリアンの顔を覗き込み、じっくり眺めた。気品のある横顔だった。目の周りに細かいしわがあり、くちもとの両脇には見慣れない折り目が刻まれていた。伯爵は腕を折り曲げて両手を胸の近くに寄せていた。眠っている彼は、まだなんとか邪気が無いように見えた…。

昨夜のことに後悔はなかった。かつてすべきだったことを、とうとう実行することを選択したのだ。そして今は慎重にその行為の影響を考えている。冷酷なほどに冷静でであること。それが彼が今でも生き残っている理由だった。NATOは今でも特別なミッションの相談役として、または若い諜報部員を訓練するために、クラウスを召集することがある。ついに自分の抑制を解き放つことが出来たことを、彼は悦ばしく思った。昨日の夜のことを、彼ら自身の今後をどう決断するかにかかわらず、彼は大いなる自由を感じた…。


“Guten Morgen, meine Damen und Herren. Es ist fünf Uhr dreißig.
Hier ist Radio Bonn/Rhein-Sieg mit den Nachrichten. – Beirut ...”


(ん?ラジオがアラームになっとる。) クラウスはボリュームを絞った。

ドリアンは、咽喉の奥を不平そうに鳴らして再び毛布を引っ張った。クラウスは眉をしかめてニュースを聞いた。これは普段、彼が波長を合わせる局ではなかった。クラウスが一週間前にNATOの訓練で家を空けたとき、ベルンハルドがラジオをいじったに違いなかった。彼の息子はボーイフレンドのスヴェンと少し距離を置くために、ときどき父親のアパートで夜を過ごすことがあった。

ニュースは終わった。クラウスはラジオを消そうと伸ばした手を途中で止めた。若い男の声が歌いだした。


I can dim the lights and sing you songs full of sad things,  
  灯りを落として、悲しみでいっぱいの歌を歌ってあげよう
We can do the Tango just for two. 
  僕ら二人のだけのタンゴを踊ろう
I can serenade and gently play on your heart strings, 
  セレナーデを奏でよう 君の心の琴線を優しく撫でてあげるさ
Be a  Valentino just for you.
  ぼくは君だけのバレンティノになるよ


クラウスは座りなおし、ドリアンは寝返りを打った。


Oh love – oh lover boy, 
  ああ 愛しい恋人
What’re you doin’ tonight, hey boy? 
  今夜の予定はどうする?
Set my alarm, turn on my charm. 
  ぼくのアラームをセットしてくれ 笑顔も
That’s because I’m a good old-fashioned lover boy. 
  なにしろぼくは昔ながらのやり方の恋人なんだからね


ほんの一瞬、クラウスは誰かが自分たちのことを歌っていると思った。 そしてすぐに、古いQUEENの歌を思い出した。


Oh, let me feel your heartbeat 
  ああ 君の胸の鼓動を聞かせておくれ
Go faster, faster 
  どんどん速くなっているね
Oh, can you feel my love heat? 
  ああ 僕の胸の高まりを感じるかい?
Come on and sit on my hot-seat of love 
  こっちへ来て 僕の熱い愛の座席に座ってくれ
And tell me how do you feel right after all. 
  そしてどんな気分か教えてくれ
I’d like for you and I to go romancing. 
  君とロマンチックな気分に浸りたいんだ
Say the word – your wish is my command.
  何か言ってくれ 僕は君のいいなりになるよ


ドリアンが起き上がって、優雅なあくびを漏らした。


Write my letter  
  手紙を書いてくれ 
Feel much better
  それで気分が晴れるから
Use my fancy patter on the telephone 
  電話で誘ってあげるよ
When I’m not with you, 
  君が側にいない時は
I think of you always ... 
  いつも君のことを考えてるのさ


「おはよう、ダーリン、少佐。これってクイーンだよね?」 クラウスはうなずいた。


I learned my passion in the good old-fashioned school of lover boys  
  この僕の情熱は昔ながらのやり方の学校で学んだのさ


ドリアンはクラウスの気むずかしい顔に微笑んでみせた。それからいっしょに歌い始めた。


Dining at the Ritz we meet at nine precisely ...  
  リッツで食事にしよう 9時ちょうどに待ち合わせだ
I will pay the bill, you taste the wine. 
  勘定はぼくが持つよ 君はワインを楽しめばいい
Driving back in style in my saloon will do quite nicely, 
  僕の車で送っていくよ ドライブはきっとすばらしいよ
Just take me back to yours, that will be fine ... 
  君の家まで送らせてくれ それから…


歌は、あつらえた手袋のように彼らの状況にぴったりだった。 ほとんど馬鹿げているほどに。クラウスは再び鼻を鳴らしたが、ドリアンが彼に飛びついたとき、猛然と彼を抱きしめて、恋人の抱擁に応えた。


Everything’s alright, 
  なにもかも上手くいくさ
Just hold on tight  
  ただしっかりつかまっていてくれれば
That’s because I’m a good old-fashioned lover boy. 
  なにしろぼくは昔ながらのやり方の恋人なんだからね


THE END