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このサイトについて: 私自身が30年来のファンであり、また海外のslash fandomの一角で80年代から現在に至るまでカルト的な人気を擁する、「エロイカより愛をこめて(From Eroica with Love)」を題材とした、英語での厖大な二次創作群を紹介・翻訳しています。サイト管理者には原作者の著作権を侵害する意図は全く無く、またこのサイトにより金銭的な利益を享受するものでもありません。「エロイカより愛をこめて」は青池保子氏による漫画作品であり、著作権は青池氏に帰属します。私たちファンはおのおのが、登場人物たちが自分のものだったらいいなと夢想していますが、残念ながらそうではありません。ただ美しい夢をお借りしているのみです。

注意事項:
 原作の内容を大幅に逸脱し、男性間の性愛を主題にした明らかに性的な内容を含みます。不快感を覚える方は画面をお閉じ頂けるよう、お願い申し上げます。

2011/07/29

【海外フィク紹介】The Evening Star - by Filigree



Evening Star 
by Filigree
Achieve of Our Own - Evening Star
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"Cinnamon Toast"に引き続き、Filigree作のFanficの紹介です。私ははっきりと男性である伯爵が好きなので、率直に言って"Cinnamon Toast"よりはこちらのほうがずっと好みです。なお、 "Evening Star"とは宵の明星のこと。

Filigreeはたいへん力強い作風のスラッシュ作家で、その作品はしばしば死と、それにまつわる渇望に満ちた性とに縁取られています。私は別の作家と英語における"Slash"と"Yaoi"の微妙な差異についてメールをのやり取りをしたことがありますが、ややこしいことに、その二語はどうやら日本語で言えば、「やおい」と「BL」にそれぞれ相当するようでした。ならばその語意において、Filigreeは明らかにSlasherであるといえましょう。私の認識では、"Slash ≒ やおい"とは常に、ある主体が世界における承認を渇望する物語だからです。(そうです。私は旧世代です。)

言うまでもなく、それを読み物として可能にするには技術が必要です。本作において、彼女の技術はポルノグラフィとしての実現に余すところなく駆使されています。技術と計算のない性描写が落書きよりも性質が悪いものになりがちなのは皆さんご存知のとおりですが、本作は「ある種の女性」向けのポルノとしてバランスの取れた成功をおさめています。

ふたつの主体が相互に本質的な承認を求めるという言わば浮世離れした話の核に、現実的な肉付けを与えているのが、ねちっこい性描写です。それは性玩具を使った電話でのセックスに始まり、やがて一方において初めての経験となるアナルセックスで物語のクライマックスを迎えます。こう単純に書くと非常に陳腐な筋書きのはずなのですが、なかなかそういう水準の作品ではありません。支配と服従を通じた相互承認の駆け引きにより、なぜ当事者が最終的にその行為を望んだのかへの過程を、作者は緻密に設計しています。もちろん、荒唐無稽の謗りを与えることは簡単ですが、それでもこういったものは私のようなある種の病を持つ読者にとっては、癒しに満ちたファンタジーなのです。そして本作は、この種のファンタジーでこの長さのものとしては一級です。同性間のアナルセックスを主体にすえた性描写は容易に異性愛の模倣に陥りやすく、正直なところ読んでいて興ざめなことが多いものですが、そのslashyな描写の妙、また結末の破綻・欠点も含めていかにもslashらしいshashであり、私は本作に魅せられ一気に読了し、なお何度も読み返しました。

以前のエントリでも触れたように、同作者には "Blood and Secrets" や "Cold Iron"などの、冷え冷えするような死や残酷な情交を主題とする"darker Eroica death fic stories"があり、少佐が完全に「受」にまわるJoramの"Moonlight Shadow","Need"などと並んで、ごく少数の読者に熱狂的に受け入れられているように思えます。1000人が読めば999人までが嫌悪感に眉をしかめるようなこういった奇妙な創作物に、性的主体であるはずのある種の私(たち)はなぜ惹かれてやまないのでしょう?これらの作品は、おそらくその熱狂的な読者にとっては逆説的な癒しに満ちたファンタジーとして存在しているはずです。いったい、男性向けのポルノグラフィが「相互に本質的な承認を求める主体」などといったものを描くでしょうか?また、それが読者にとっての癒したりえるでしょうか?日本で「やおい」が、欧米で"slash"がほぼ同時に誕生し、進化してきた理由はなぜなのでしょうか?私たちが性的主体であることを疎外されてきたがゆえの復讐?私たちが世界における承認を得るために必要ななんらかのsacrificeを、登場人物に負わせているから?だとすれば私たちはそもそも罪深い存在なのですか?その罪は私たち自身に由来するもの?それとも社会的に、つまり歴史的に、ひょっとすると生物学的に、あるいはその他のなんらかの理由で烙印を押されたもの?-私にはまだ自分なりの結論が出ていません。

とまれ、このよくできたポルノグラフィを読むという体験は、私においてそうであったように、あなたにとってもなんらかのパンドラの箱を開ける作業になるのかもしれません。特に、あなたが忠実なエロイカのファンであるならば。

Evening Starはネット上で全文の日本語訳が公開されています。力強さと優美さを兼ね備えたスリリングな名訳で、英語版と併せ、私はじっくり楽しみました。ご興味のある方はぜひ探してみることをお勧めします。



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