このサイトについて

このサイトについて: 私自身が30年来のファンであり、また海外のslash fandomの一角で80年代から現在に至るまでカルト的な人気を擁する、「エロイカより愛をこめて(From Eroica with Love)」を題材とした、英語での厖大な二次創作群を紹介・翻訳しています。サイト管理者には原作者の著作権を侵害する意図は全く無く、またこのサイトにより金銭的な利益を享受するものでもありません。「エロイカより愛をこめて」は青池保子氏による漫画作品であり、著作権は青池氏に帰属します。私たちファンはおのおのが、登場人物たちが自分のものだったらいいなと夢想していますが、残念ながらそうではありません。ただ美しい夢をお借りしているのみです。

注意事項:
 原作の内容を大幅に逸脱し、男性間の性愛を主題にした明らかに性的な内容を含みます。不快感を覚える方は画面をお閉じ頂けるよう、お願い申し上げます。

2011/08/04

思い違いが発生。

 
「クラウス…」「ドリアン!」二人のファーストネーム呼び合いに全く違和感が無く、伯爵の甘ったるい「daaaaaaarling♪」にも一切動じなかった私ですが、それは英語だったからだようです。英語で読む文には全くなんでも平気だったファンフィクですが、それを日本語に翻訳していると心身面へのダメージがかなーり大きいものもあることが、このたびめでたく判明しました。どうやら脳みそのぜんぜん違う部分で楽しんでたみたいです。

今とっても「受け受けしい」乙女な少佐を訳していますが、これは正直とてもツライ…。いたたまれなさの余り地平線に向かって走りだしたい気分で、今ならハーフマラソンぐらい走れるかも、というぐらいの切羽詰った気分でいます。そーですAnne-Liの"For Dorian's Eyes Only"です。(みんなもう読んだ?読んだらわかってもらえるよね!) 普通に読んだときには、「がっはっは、やっとるのう! 少佐もとっとと快楽に素直に向き合って、もっとイロイロ伯爵に開発してもらいなさい!」ぐらいの太っ腹な感想だったのに。

ああ、いたたまれない…。(でも翻訳は続行)

(鳥肌が立てながら訳してます。幸せなだけにド変態だ…)
(無理やりぶち込んだり縛り上げたりしてるほうがよっぽどダメージが少ないぜ…)
(っていうか超誰得…)
(もんのすごいイカものを喰ってる気がする…)
(この場合「シュールストレミングを喰ってる気分」という説明でわかってもらえるのだろうか…) 注:作者はスウェーデン人 
(っていうか私、発酵モノって大好物なんだよな・・・) 
 

で、余計な好奇心が私という下世話な人間の根本を形成しているらしく、私の場合はそこで読むのをやめるのではなく、周辺をいろいろとこねくり回しつつ、そこから「なぜこの人はこういうものを書くのだろう?」「この書き手はどういう人だろう」「なぜ私はこれを読んでこう反応するのだろう?」という方に興味が行ってしまうのです。ブルーチーズを齧りながら、「どうやって作ってんの、これ?」と、青カビの学名を調べずにはいられない、みたいなもんでしょうか。

実はFiligreeさんについてもその興味が大きく働いています。彼女は自分で公言していますがプロの作家志望で、小説を書きつつエージェントを探しているそうです。私も彼女は二次創作から羽ばたいていく資質を持った人だと思う。

なぜなら彼女の創作には、「伯爵」と「少佐」の縛りを超えた性格付けが色濃くなされていたから。Eroica death fic シリーズは言うに及ばず、その他の作品でもそう。例えば「シナモン・トースト」で少佐が自分の上で腰を使う伯爵を見て、インドでの任務中に見たことのある女性の踊り子の石像を想起しますが、これは原作の少佐からやはり離れすぎでしょう。少佐、自他共に認める芸術オンチなのに。でも小説としてはここにこの性格と描写が必要だったんだろうなというのはわかります。Kadorienneさんのサイトにも「原作から離れすぎだけど読み応えがある」との評がありますが、残念ながらその評の対象となるフィクは今はネットにあがっていません。思うところあってひっこめたのかな。本人にお願いしたら、読ませてくれるないかなー。誰か保存してませんか。(後補:某氏よりご提供あり。多謝。)

Food Fantasiesシリーズの少佐は(読んだ方ならご存知の通り)、このあと伯爵との関係を暗にZに知らしめ、アメリカでの任務中のある夜Zを誘い、同じ夜にZと二人で酔った伯爵に手を出し、さらには別のシリーズになりますが伯爵と二人でZを縛って楽しみ、エーベルバッハ邸敷地内の地下牢に伯爵を、プレイなのか本気なのかわからないような口調で監禁するところまでいくわけですが、最後には9/11のワールドトレードセンターで、伯爵と二人で落ち着き払って死んでいきます。(この最後の話は別の方が訳すご予定だそうなので、私は手をつけないと思います。ひとつの作品がある読み手にとって重要な位置を占めたということを、尊重したいと考えます。)

さて、「アメリカでの任務中」「9/11で」とういうあたりに、人はやはり自分の歌しか歌えないのだろうかという、ある種の痛ましさを感じませんか? でも、歌うべき自分の歌のある人は、それを歌えばいいと思う。私たち読者はその苦しみに満ちた産卵の行為を、手の届かぬ場所から見つめるだけです。もしFiligreeの著作が出れば、多分私は買いますね。彼女はもう10年近くエロイカのフィクを書いていないそうですが、いまでも感想のメールが舞い込むそうです。私のような人がいるわけですね。

これと正反対の感想を持って読みつつあるのが、Anne-Li。この人はいったい何者なんだろう??? いや、エロイカのコレクター界では東のE*****さんと並び称される、西のチャンピオンであることに間違いは無いのですが。たぶん、日常生活では多分ものすごい奇矯な変人か、もしくは群衆にまぎれて目立たない、それこそ優れた諜報部員のように没個性に見えるように振舞っている人か、極端などっちかの人だろうと思う。(でもまあ、8:2で前者かな…。日本以外の国では同調圧力というのがそれほど高くないので、他人からどう思われようが別にヨロシイのです。私も・・・あは!)

彼女は極力自分の歌を歌わなようにしている。その注意深い制御の部分が興味深い。でももしかするとこれは、Filigreeが母語で書き、Anne-Liがそうではないという差に由来するのかな。いちどどこかで、スペイン人のslasherが「母語で書ければもっと楽なのに」と発言したのに対し、Anne-Liが「そうかしら?私は英語でなければ書けなかったと思う」とサラッと返していたのを読んだことがある。非母語での創作が、創作物に影響を与えないはずはないと思う。それはさておき。

どちらにしろ、書くものに現れている彼女は洗練さと茶目っ気と計算された破調と、そして注意深く取り扱われた毒気と辛辣さをもつ、一人の知性ある誠実な女性です。誠実、特に愛情と自尊心に向き合うその姿勢において。たとえば彼女が伯爵の人間性を語った一節を見てみましょう。私へのメールからの抜粋です。(本人承諾済)

He's the type of man who is not afraid to wear pink, because it doesn't make him less of a man,  it just looks darn good on him. :) He dares to be himself. I admire him for this.

伯爵はピンクを着ることを恐れる男ではない。なぜならそれが自分の男性性を少しも損なわないことを知っているから。ピンクはただ彼に圧倒的によく似合うというだけだ。そして、彼は敢然として自分らしくあろうとする。私は伯爵のそういった点を賞賛する。

素晴らしいと思いませんか?そして私がぶつかるのは、そういう人に、やはりなぜslashが必要なのかというやはり根本に立ち返った疑問です。彼女はあるところで、"when I found slash it felt like coming home."と書いており、これは正直なところ私には大変よくわかる感覚なのです。彼女は「私がスラッシュを読み始めたのは17歳、でもm/mものはもっとずっと以前から」と書いています。私自身がこういうものを読み始めたは13歳。たぶん世界中のあちこちで、私たちのような少女は山ほどいたんでしょうね…。それはいったいなぜなのか。

世界中にいるはずのこういった女性たちを、私は私の魂の姉妹たちと呼ばずにはおれません。彼女たちはそれぞれに傷を抱えていて、傷口からほとばしる叫びや号泣や、あるいはため息やつぶやきや、ときおり拾う愛情やまれに混じる憎悪や思いがけない嫉妬をインクにして、ペンを走らせる。キーボードをたたく。そこから生まれた物語たちは彼女たちが傷と向き合うよすがになり、そしてたぶん多くの場合はそれを癒す大きな助けとなり、やがて彼女たちはそこから羽ばたいていったり、いかなかったりする。癒えた傷も、傷痕は残っているかもしれない。

つまり私にとってのスラッシュとは多分、白鳥たちが生きている限り歌い続けるSwan Songそのものなのでしょう。



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いやいや、なにをどうくっちゃべっても、"For Dorian's Eyes Only"の翻訳はやはりHPが減りますな。とりあえず二本目の指が入ったとこまで訳しました。少佐には言葉責めがきくようです。siblingを「兄弟」と訳すと、漢字の見た目がどすこいな感じで不恰好なので、一旦「隣人」と訳しておきますね。人差し指の隣人は中指。そういえば原作の伯爵は最近手が大きくて指もむっちり、決して細めじゃないですよねー。あれが二本か…。だめだだめだ、余計なことを考えて体力と気力を消耗するのは避けよう。まだまだ先は長い。

一度スラッシュ・コンに行ってみたいな…。行くなら北米よりロンドンとかかな…。家族旅行で行って、一人だけ抜けてそんなとこ(←普通の人から見たら変態集会であろう)行ってるのが家人にばれたら軽く死ぬる。今思ったが、私って現実世界の人のありようを考えたときに、とことん女性にしか興味が無いや。どういうわけだろうなあ、これは。

ま、そーゆーわけで"For Dorian's Eyes Only"は、今夜中にはなんとか。(ニヤリ) 愛しているさ、発酵食品。
  

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